CIAにリクルートされた暗殺者、シエラ・シックスと、離反したシックスの命を狙って襲いかかる傭兵、ロイド・ハンセンが、熾烈な殺し合いを展開する。ネットフリックスが2億ドルの製作費を投入したと言われる『グレイマン』(2022年)だが、主にそれはシックスを演じるライアン・ゴズリングと、ハンセン役のクリス・エヴァンス等の懐にギャランティとして入ったか、もしくは、バンコク、ウィーン、プラハ、クロアチアと展開するロケーション代に飛んだか、詳細は不明だ。ただ、衣装代もけっこうかかっているのではないかと勘繰ってしまうのは、もしかして服好きの性だろうか?
シックスとハンセンは色々な意味で対照的だ。比較的寡黙で実直、それでも意外に服にはこだわるシックスは、冒頭からシャープな赤いスーツで登場する。スーツの下には白いクルーネックのTシャツという上級の着こなしだ。バンコクのクラブでシックスと落ち合うアナ・デ・アルマス扮するCIAエージェントのミランダが、まるでシックスの装いを見越したような花柄のスーツ&タイというジェンダーレスなスタイルなのは衣装担当のこだわりだろう。
さて、今回のコラムでよりフィーチャーしたいのは、ハンセンが着こなすニットポロ(2016年に立ち上がったレディトゥウェア・ブランド、〈キングアンドタックフィールド〉製)の方だ。ハンセンはその鍛え上げた上半身にジャストサイズの黄色&茶色のストライプのポロを、ヒップラインを強調したライトグレーのチノパンにタックインし、また、クライマックス近くなると、グレー地にネイビーのダイヤモンドチェックが入ったポロにネイビーのチノで登場する。表情を何ら変えることなく人を殺すサイコパスキラーのハンセンには、ハイセンスなニットポロがマッチしているという服飾的トラップだ。サイドを神経質に刈り上げた自分のヘアスタイルを棚に上げて、シックスのナチュラルヘアを『ダサい』と小馬鹿にしているところなんて、怖さを通り越して笑ってしまう。
ハンセンのポロは勿論袖短めで、膨れ上がった上腕二頭筋が戦略的に観客の目を引く。それは、逃亡の途中で裸になった時にマッスルな上半身が露わになるシックスの場合も同じ。演じるエヴァンスとゴズリングが、クランクイン前にどんだけ鍛え上げたんだろうと考えると楽しくなってしまう。この衣装と筋肉を介した”ブレードランナーVSキャプテン・アメリカ対決”こそが、本作最強の発火剤かもしれない。
『グレイマン』
製作年/2022年 原作/マーク・グリーニー 製作・監督/アンソニー&ジョー・ルッソ 脚本/ジョー・ルッソ 出演/ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェシカ・ヘンウィック 配信/ネットフリックス
photo by AFLO