ほかに誰もマネできないスタイルで、マニアックに愛される監督がいる。ウェス・アンダーソンもその一人。『グランド・ブダペスト・ホテル』など、映画という枠を超えて、その世界は現代アートとして愛されている。この最新作でも独自路線は、さらに加速!?
舞台となるのは、アメリカの新聞社がフランスで発行する雑誌“フレンチ・ディスパッチ”の編集部。しかし編集長が急死したことで廃刊が決定。その最終号に載る記事が、3つのドラマとして展開していく。服役中の殺人犯にして天才画家の奇妙な運命(アート系)。学生運動とジャーナリストの物語(青春ストーリー)。そして警察署長の息子の誘拐事件(サスペンス)。その3つのほか、記者による街のレポートなど編集部でのあれこれも挿入され、映画なのに、お洒落な総合雑誌をパラパラとめくりながら楽しんでいるよう……と、またもや独特なムードが全編に貫かれているのだ。モノクロとカラー、さらにスクリーンのサイズが鮮やかに切り替わったりして、アンダーソン監督のこだわりが充満する。
カラフルな色づかい、左右対称の構図など、物語を忘れるほど映像のセンスに集中してしまうのも、この監督ならでは。とくに今回は、サスペンスパートでのグルメや、ロケで描かれる架空のフランスの街並が、強いインパクトを残す。さらに注目は、揃いも揃った人気&実力派スターたち。オスカー俳優だけでも4人。ビル・マーレイらアンダーソン組の常連に、ティモシー・シャラメら旬の俳優も集結。『007』での記憶も新しいレア・セドゥがみせる超大胆な姿は、ある意味、必見だ。彼らが、感情を爆発させる演技は抑えめにして、不思議なオーラの無表情で演じ続けたりと、これまた作品の新鮮な味わいに貢献。あらゆる要素において、ちょっと別次元の体験をしたい人にとって、このウェス・アンダーソン最新作は、最上のプレゼントになることだろう。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』1月28日公開
原案・製作・監督・脚本/ウェス・アンダーソン 出演/ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、フランシス・マクドーマン、ティモシー・シャラメ、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、エドワード・ノートン 配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
2021年/アメリカ/上映時間108分
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito