F1ドライバーの名前を聞かれたら、誰を思い浮かべるか? アイルトン・セナ、アラン・プロスト、ルイス・ハミルトン……など次々と出てくるが、“伝説”として語り継がれる一人は、ミハエル・シューマッハだろう。F1の最多優勝(91回)、チャンピオン7回など数々の記録を打ち立てたシューマッハのドキュメンタリーが完成した。
シューマッハといえば、歴代のF1レーサーの中でも、その精密なドライビングテクニックが際立っていた。要するに”天才”である。本作は、その天才がどうやってヒーローになっていったかを、きっちり時系列に沿って振り返るので、改めて偉業を実感できる。子供時代からめばえたプロ意識。自分のミスは絶対に認めたくない性格。そして完璧な走りを追求する精神力。さまざまな側面が明らかになっていくが、圧巻はレース時のドライバー目線の映像だ。F1を描いた映画ではよく目にするが、この映画で使われるのは“本物”。接触やクラッシュの瞬間は、観ているこちらも最速時の恐怖を体感してしまう。
F1の歴史を知る人には、アイルトン・セナが急成長してきたシューマッハにどんな態度をとったのか貴重な映像に感動し、長年のライバルになるはずだった両者が迎える運命に、改めて果てしない衝撃を受けるはず。一方で、フェラーリで勝利を獲得する鈴鹿サーキットがじっくり再現されたり、感無量のシーンも豊富。
デイモン・ヒルやミカ・ハッキネン、父や妻、子供たちが、天才ドライバーの素顔とともに、2013年、スキーの事故によって現在まで人前に出てこられない本人の思いを代弁し、その部分も胸を締めつける。「ギリギリまで攻められるように完璧を目指し、しかし限界を超えると敗れる」。F1の歴史に名を刻むレジェンドの言葉は、職業を超えて多くの人たちに強くアピールすることだろう。
『シューマッハ』
監督/ハンス=ブルーノ・カマトゥンズ、ヴァネッサ・ノッカー、ミヒャエル・ヴェッヒ 出演/ミハエル・シューマッハ 配信/ネットフリックス
2021年/ドイツ/視聴時間112分
9月15日よりネットフリックスにて配信中
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