アクションから人間ドラマまでジャンルを問わず、多くの映画がテーマにするのが“家族”。さまざまな家族関係が描かれるが、意外に少ないのが、父と息子だ。しかもある程度、成長した息子と父親となると、その関係は複雑。本作はそこにフォーカスしているので、予想外の方向で心を揺さぶられる人も多いのでは?
この『The Son/息子』は、アクションヒーローやミュージカルを得意とするヒュー・ジャックマンが、演技力で勝負に出た一作として必見。彼が演じるのは、弁護士のピーター。次期大統領選挙の参謀チームに誘われるほど仕事は有能で、私生活でも妻との間に子供が生まれたばかり。ところが元妻と暮らす17歳の息子、ニコラスが不登校であると知らされ、「父親と生活したい」という彼の要望を受け入れることに。新たな学校に通い、赤ん坊の弟とも触れ合い、ニコラスは少しずつ明るさを取り戻すが……。一度は離れて生活した父と息子。父親の新たなパートナーも含めた家で、その関係がどう変わるのか。なかなか複雑で難しいシチュエーションの本作だが、父と息子、さらに元妻と現在の妻と、それぞれの立場で感情移入させるポイントが用意される。
監督は『ファーザー』で、認知症の父と娘の関係を斬新なタッチで描いたフロリアン・ゼレール。その『ファーザー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスが、本作でもピーターの父親を演じているが、その出演シーンが短いながらインパクト絶大。息子のことで悩むピーターに対し、すべて達観したように与える人生の先輩のアドバイスが、観ているこちらの心にも鋭く突き刺さってくる。名優の余裕たっぷりの演技も見どころだ。
そしてヒュー・ジャックマンも、要所で軽妙さも出しながら、終盤ではキャリアで最高レベルの熱演をみせる。ラスト5分はおそらく誰もが心をかきむしられ、観終わった後も落ち着くまでしばらく時間がかかるはず。家族への愛はどのように注げばいいのか? 永遠に解決しないそんな問いを、本作でじっくり考えるのもいいかもしれない。
『The Son/息子』3月17日公開
監督・脚本・原作戯曲・製作/フロリアン・ゼレール 出演/ヒュー・ジャックマン、ローラ・ダーン、ヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス 配給/キノフィルムズ
2022年/イギリス・フランス/上映時間123分
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