PROFILE
1980年、イギリス生まれ。映画デビュー作『コントロール』で伝説のロックバンド、ジョイ・ディヴィジョンのボーカルだった故イアン・カーティスを演じ、高い評価を獲得。『ロシアン・ルーレット』『オン・ザ・ロード』『ビザンチウム』などを経て、ディズニー映画『マレフィセント』に出演する。その他の出演作に、『高慢と偏見とゾンビ』『フリー・ファイヤー』『ウェイ・ダウン』など。異色の歴史ファンタジー『SS-GBナチスが戦争に勝利した世界』など、TVドラマでも活躍している。
演作の本数がとりたてて多いタイプではないが、作品の中で放つ存在感は大きい。出演作選びで大切にしているのは、「心に訴えかけてくるものがあるかどうか、自分の倫理観に合ったものかどうか」だそうだ。伝説のミュージシャンを演じ、業界の注目を一躍集めることになった映画デビュー作『コントロール』(2007年)から、哀しき悪役に仕える“カラス”を演じたディズニー大作『マレフィセント』(2014年)まで。過去の出演作からは、どこかサム・ライリーらしさを感じさせるものがひとつひとつきちんと並んでいる印象を受ける。
日本公開を控える映画『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』もそうで、この中で彼が演じているのは“キュリー夫人の夫”。19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した偉人であり、2度のノーベル賞に輝く科学者マリ・キュリーの夫として物語の鍵を握っている。そもそも、女性の活躍が困難だった時代に対する皮肉が“キュリー夫人”の通称に今も漂っているわけだが、夫であるピエール・キュリーも歴史上で語られるべき人物だったのは事実。マリとピエールは二人三脚で研究に励み、未知の元素を発見し、人類の未来を変えた。『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』はそんな夫妻の秘話に迫るもので、ロザムンド・パイク演じるマリを中心に物語が展開。夫のピエールは、マリの公私にわたるよきパートナーとして描かれる。「キュリー夫妻について、実はあまり知らなかった。どれだけマリ・キュリーが卓越していたのか、どれだけ夫婦として素晴らしかったのかに気づいていなかったんだ」というライリーは、脚本に描かれた2人の夫婦関係に惹かれたそうだ。
「彼らの関係の描かれ方がとても好きだった。当時としては珍しい無宗教の家庭で育ったピエールはマリと恋に落ちたとき、兄のジャックとともに様々な物質の電位を測定するための水晶電位計を開発していた。驚くべきは、マリとピエールがお互いを完璧に補い合ったことだろうね。一方に欠けたものがあっても、もう一方が備えていた。愛し合うことにおいてだけでなく、研究においてもそう。彼らは志と運命をともにした完璧なカップルだったんだ。2人はお互いが研究に対して同じ衝動を感じ、同じ志を持ち、同じ謙虚さを備えていることを知ることができた。2人とも、科学だけを信じていたんだ」
こう語るとおり、劇中のマリとピエールはときにぶつかり合いながらも常に深く愛し合っている。ゆえに、2人の発見が癌治療などに貢献していく一方、戦争の道具に使われて事態が複雑さを増す展開においても、史実に沿った事態が夫婦を襲い、マリの人生が混乱する展開においても彼の存在は変わらず大きい。ちなみに、ライリー自身は冒頭に挙げた映画デビュー作『コントロール』の共演者だったアレクサンドラ・マリア・ララと撮影中から惹かれ合い、映画完成から約2年後に結婚。マリとピエールになぞらえるわけではないが、同業者同士として運命の相手と早々に出会い、「志と運命をともにした完璧なカップル」になっている。それは今も変わらないようで、ライリーが『マレフィセント2』のプロモーションで日本にやって来た2019年、話を聞いた際にも妻との出会いを嬉しそうに振り返ったり、授かった息子の父である喜びを気さくに語ったりしていたのが印象的だった。そんな彼のこと、ピエールへの理解も深かったようで、「サムはピエールという役で大きな優しさを表現することができた。ピエールがマリの人生に重要であること、この作品が実はマリとピエールの物語であることを彼は理解していた」と製作陣も絶賛。結果、サム・ライリーらしさを感じさせる1本へきちんと導いている。
もちろん、優秀な科学者と化すには、“感情”以外の“勉強”も必要だったようだが。「ピエールを演じるため、化学や基礎物理を勉強したり、(パリにある)マリ・キュリー博物館の講座を受けたりもした。マリ役のロザムンドは素晴らしい俳優で、とても賢く、真剣に自宅学習に取り組んでいた。だから、スクリーンの中で僕の隣に並ぶ彼女は、間違いなく天才教授の雰囲気を醸す。ということは、僕も宿題をやらないわけにはいかなかったんだ(笑)」
現在、42歳。出演頻度は相変わらずマイペースを貫いているようだが、撮影済みの映画2本が公開待機中。2本は10年ぶりに再会した元夫婦の関係を描くラブストーリー『シー・イズ・ラブ(原題)』(ヘイリー・ベネットと共演)。もう1本はジュード・ロウ演じる英国王ヘンリー8世を題材にしたサスペンス史劇『ファイアブランド(原題)』だという。今の時点でそれらからサム・ライリーらしさを見つけ出そうとするのはさすがに無粋だが、興味をそそられる作品なのは確か。もう少し多くの作品で顔を見たい気もするが、これこそがまさに“らしさ”なのかもしれない。
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The story of Marie and Pierre is undoubtedlyone of the most perfect unions of man and womanin both love and shared ambition and destiny.
マリとピエールの物語は、愛し合い、志と運命をともにした最も完璧なカップル(の物語)のひとつだ。
サム・ライリー
『Urban Safari』Vol.29 P6〜7掲載
photo by Fabrizio Maltese / Contour by Getty Images(COVER), Getty Images text : Hikaru Watanabe