1960年代のハリウッドに充満していた明るいのにどこか暗い空気感をたっぷり吸い込んだファッションを楽しむなら、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に限る。クエンティン・タランティーノのあの時代に対する強い愛着が、音楽、風景、クルマ、そしてファッションに強く投影されているからだ。モデルを務めるのは勿論、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットだ。
写真右/リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)
ディカプリオ扮するリックはTVの西部劇で人気を博した落ち目のアクションスター。今は映画での再起を目指しているがなかなか上手くことが運ばない。しかし、そこは元スター。当時流行した両胸にポケットが付いたサファリルックを、わざわざレザーで自分仕様にしてみたり、同じくレザー製のジャケットにマスタード色のハイネックとレザーブーツを合わせたりと、いちいち高級感を引き摺っている。片面に自分のイニシャル”R”が刻印されたメダルを首からぶら下げているのも、若干ヤバくなっているとは言え、彼のステイタスを象徴しているような気がする。
クリフ・ブース(ブラッド・ピット)
一方、ピットが演じるクリフはリックの付き人兼スタントマンという設定だから、とにかく徹底してカジュアル志向。アジアンモチーフのヴィンテージ・アロハ、”Lion’s Raceway”のフレーズと獅子の頭が掠れ気味にプリントされたTシャツ、恐らく〈リーバイス〉501 66後期モデルと思われるジーンズ&ジージャン、1964年にアメリカで創業し、ネイティブアメリカンの必須アイテム、モカシンを大流行された〈ミネトンカ〉のフリンジ付きブーツ(スウェードはブルージーンズと相性抜群)と、アメカジファン垂涎の一品が次々登場する。
ピットが役作りのために鍛え上げた大胸筋や腹筋が、服を際立たせている点も見逃せない。また、クリフがジーンズに通しているベルトのバックルは、衣装デザイナーのアリアンヌ・フィリップス(『シングルマン』『ノクターナル・アニマルズ』ほか)が、タランティーノからのミッションを受けてワーナー・ブラザースの巨大な衣装倉庫の中から見つけ出したという、スタントマン協会員用のベルトバックル。そう思って改めて見ると、物凄く存在感があるバックルだ。
ちなみに、映画のアメリカ公開日だった2019年7月26日に〈ミネトンカ〉はリックのフリンジ付きモカシンブーツを復刻発売したところ、一時期品薄状態になったことが報告されている。それだけ、60’sファッションは現代のストリートに定着しているということだろう。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
製作年/2019年 製作・監督・脚本/クエンティン・タランティーノ 出演/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、アル・パチーノ
photo by AFLO