映画のキャッチフレーズは、『1962年の夏、あなたはどこにいましたか?』。ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』でブレイクする前、長編第2作として放った『アメリカン・グラフィティ』は、まさにそんな宣伝文句にピッタリの、誰の心にも残る過ぎ去った時代への郷愁を掻き立てる青春群像劇。ケネディ大統領暗殺やベトナム戦争前夜、カリフォルニアのモデストにあるダイナー”メルズ・ドライブ・イン”に集まってくる若者たちの無邪気な一夏が、落書きのように綴られていく。
写真左/カート(リチャード・ドレイファス)
何と言っても注目は、この映画に登場する1950〜60年代にかけて多くの若者たちが愛したアイビールックやロックンロールスタイルの数々だ。当時の警官の制服を含めて克明に再現されたそれら’60’sファッションは、公開当時より、むしろ、今見ていて新鮮に映る。まさに”流行は巡る”の典型ではないだろうか。
写真右/スティーヴ(ロン・ハワード)、写真中/ローリー(シンディ・ウィリアムズ)
高校を卒業した後は東部の大学に進学することが決まっているカート(リチャード・ドレイファス)とスティーヴ(俳優時代のロン・ハワード)は、当然アイビー派。カートはマドラスチェックのボタンダウンの首元からTシャツを覗かせ、カーキのチノを品よく履きこなしている。スティーヴは薄いブルーのボタンダウンに同じくチノだ。これ、よく見ると’60年代ふうにリメイクされている。
ルーカスと同じく1962年代に高校を卒業している衣装デザイナーのアジー・ゲラート・ロジャーズは、カートのために〈ブルックスブラザーズ〉でシャツを2枚購入するのだが、1970年代のシャツの襟は大きかったため、わざわざ60年代風に短くカット。スティーヴのボタンダウンはカスタムメイドだ。ちなみに、スティーヴのガールフレンド、ローリー(シンディ・ウィリアムズ)が羽織っているレタードカーディガンは、ルーカスの母校から拝借してきた物だとか。劇中に登場するホルスタイン警部の制服にちっちゃな蝶ネクタイが付いているのも、当時の警官の制服を再現したものだ。凄い!
写真右/テリー(チャーリー・マーティン・スミス)
一方、不良たちが羽織っている背中に”PHARAOHS”の文字が入ったカーコートは、これをきっかけに”ファラオコート”として人気アイテムに。古着好きの間では垂涎の逸品だ。足元に目をやると、”メルズ・ドライブ・イン”に一人だけベスパでやって来るテリー(チャーリー・マーティン・スミス)は、エルヴィス大好きなロカピリーファンが愛したホワイトバックスシューズを履いている。テリーが着ている黒襟のシャツは一見ボーリングシャツに見えるが、実はこれもアジー・ケイド・ロジャーズがルーカスの指示を仰いで作ったカスタムメイド。ルーカスが衣装にも口を出したという、これは隅々まで作り手のこだわりが詰まった一夏の物語なのだ。
『アメリカン・グラフティ』
製作年/1973年 製作/フランシス・フォード・コッポラ 監督・脚本/ジョージ・ルーカス 出演/リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード、ポール・ル・マット、チャールズ・マーティン・スミス、ハリソン・フォード
photo by AFLO