MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)も、オールスターの『アベンジャーズ』が一旦終了してフェーズ4に突入。作品も多様化しているが、ずっと観続けてきた人、ライトなファン、あるいは初見の人、すべてを満足させるという意味で、この新作はまたも高いハードルに挑んでいる!
本作のメインとなるトピックは、タイトルでも示されたように『マルチバース』。いくつものパラレルワールドが存在し、それぞれに自分がいて別の運命をたどる……という、マルチ(複数)なバース(次元)の設定だ。主人公のドクター・ストレンジは別のバースの扉を開くことができ、直近の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でもその能力を発揮。『スパイダーマン』の複数の世界観をごちゃ混ぜにして、思わぬ感動も導いた。今回はストレンジが、マルチバースを行き来する少女、アメリカ・チャベスと出会ったことで、さらなる壮大かつ複雑なスケールへと発展。別世界の自分や、MCUの重要キャラ、ワンダ(スカーレット・ウィッチ)も絡んで空前のバトルへとなだれ込む。
2016年の前作『ドクター・ストレンジ』や、2021年配信でワンダが主人公のドラマ『ワンダヴィジョン』の予備知識が多少あった方がいいが、そうでなくてもマルチバースのめくるめくビジュアルで、魔法をかけられたようにストレンジの苦闘に引きこまれる。シンプルに奇跡の映像体験を味わうだけで価値がある一作。そして注目なのは、監督だ。『スパイダーマン』の最初の3部作以来、ヒーローアクションに戻ってきたサム・ライミなのだが、彼はホラーの名手でもあり、中盤からはドッキリ演出、生と死の世界の境界が崩れる描写など、その手腕が全開。MCUをずっと追いかけてきた人にも斬新なショックを与えるはず。マルチバースを行き来する複雑なシチュエーションを、名監督が得意技でまとめ上げ、唯一無二の作品に仕上げた印象だ。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』公開中
監督/サム・ライミ 脚本/マイケル・ウォルドロン 出演/ベネディクト・カンバーバッチ、エリザベス・オルセン、ソーチー・ゴメス、レイチェル・マクアダムス 配給/ディズニー
2022年/アメリカ/上映時間126分
(C)Marvel Studios 2022