最愛の妻の命がテロ組織に奪われ、CIA分析官のチャーリー・ヘラーは復讐を決意する。しかし彼は、CIA本部内での仕事が専門で、現場でのミッションは“アマチュア”。たった一人で凶悪で卑劣な敵の集団に彼はどう立ち向かうのか……。『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞主演男優賞に輝いた後、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の悪役などで個性を発揮してきたラミ・マレックにとっても、アクション大作で主演を務めるのはこれが初。チャーリー役で、過去のどんな映画とも違う斬新なスパイヒーローを誕生させた。そしてチャーリーの妻サラ役は、今年の話題作『スーパーマン』(7月11日公開)でヒロインのロイス・レイン役に抜擢されるなど、いま最も注目のレイチェル・ブロズナハン。来日した2人に『アマチュア』にかけた思いや、共演した喜びなどについて話を聞いた。
ーーまずラミに質問です。『ボヘミアン・ラプソディ』以来の主演作ということで、本作への特別な思いから聞かせてください。
ラミ「それが主役なのかどうか。出番が多いのか、少ないのか。僕はそこにこだわらない。出演を決める際は物語の中での役割を重視し、自分の肉体が“引き受けるか”、“いや引き受けない”と反応するんだ。今回はアクション映画であり、スパイもの。そして勝ち目のないアンダードッグ的キャラクターが闘いに挑む。そうした強さをチャーリー役に見つけられたんだ」
ーーチャーリーの運命はドラマチックで過酷です。
ラミ「そうなんだ。チャーリーがサラというパートナーに出会い、育む絆は、誰もが共感できるわけだけれど、最愛のサラの命が奪われてしまう。誰かを悼むことの意味や、悲しみがどんなものか。その悲しみを受け入れつつ、犠牲になった相手のことは絶対に忘れない。そんなストーリーがアクション映画に組み込まれていたから、僕は惹きつけられたのさ」
ーーレイチェルも、エミー賞主演女優賞などを受賞したドラマシリーズ『マーベラス・ミセス・メイゼル』が終了して、本作を次回作として選んだわけですよね。
レイチェル「私も役の大きさには、あまり関心がない。良質な脚本や、仕事をしてみたい監督や共演者で選ぶようにしている。今回だったら、ラミとの共演も重要なポイント(笑)。ラミとは長年の友人で、“いつか一緒に仕事したいね”と、ずっと話していたから。あとは今までやったことのない役というのも出演の決め手になる。『マーベラス・ミセス・メイゼル』では挑めなかった演技ででき、いいチャンスだと思ったの」
ーー映画を観て、チャーリー役はラミにぴったりだと感じたのですが、性格的に共通する部分もあったりしたのですか?
ラミ「僕はあまり素顔のことは語りたくないけど……(笑)、今回のチャーリー役での演技は、たしかに自分の生々しい部分にアクセスしたかもしれない。周囲から見られないようにしたり、どうしても避けたい話題があったり、そんな部分は僕自身とも共通する。世界で見過ごされている人たちに気づき、目を向けたいと、僕も思っているしね。あと若い頃から僕は、会話をしなくても、目の前の相手の感情を推し測り、理解してしまうところがあった。そんなところがチャーリーと似ている。でも僕の場合、100%間違って相手を理解してしまうことも多いかな(笑)」
レイチェル「ラミは、内面にいくつもの複雑なレイヤー(層)がある人で、好奇心旺盛。そんなところがチャーリーに近い気がする。あとこれは本人が認めないかもしれないけれど、ラミは人間としても、俳優としても寛容で心が広いタイプ。そして情熱的な性格。自分の信念で世界の果てまで何かを追いかけるチャーリーのようなパッションは、ラミの中にもあると思う」
ラミ「僕もレイチェルに対し、そしてサラというキャラクターに対しても同じ言葉を返すよ。おたがいそう感じているから、うまくいったんだね」
ーーチャーリーは、いわゆるスパイ工作に挑戦しつつ、経験不足が露呈したりして、そこが映画を面白くします。演じる立場として難しいチャレンジだったのでは?
ラミ「そこは演じるうえで重要で、絶対にブレてはいけない部分だった。この映画での“北極星(英語でNorth Star。最も指針となること)”が、チャーリーがアマチュアである事実だからね。もちろん物語が進んでチャーリーはテクニックを習得するし、もともと才能もあっただろう。ただし最初は、プロだったら簡単にできることも、難しいように演じなければならない。映画を観ている人も、そんなチャーリーの立場に寄り添って、進化を応援していく。そして後半では、まさかの行動が成功して、チャーリー自身が驚き、観客もびっくりする。そこに本作の魅力があるんじゃないかな。映画の最後の方では、多くの人が期待するような“イケてる”スパイに、あえて少しだけ近づけたつもりだよ(笑)。でもチャーリーのアイデンティティは失わないように気をつけた」
ーーラミは『アマチュア』でプロデューサーも兼任しました。
ラミ「あくまでも複数のプロデューサーの一人という立場だけれど、監督のジェームズ(・ホーズ)との仕事で、その意義を感じたかな。ドラマシリーズ『窓際のスパイ Slow Horses』で、彼の美学、ディテールへのこだわりを感じていたし、今回の仕事でも周到な準備、ユニークなビジョン、映画を完成まで持っていくその執念に、プロデューサーとして一緒に仕事をする喜びを味わったんだ」
ーーレイチェルの立場から、共演者のラミがプロデューサーを務めたことをどう評価しますか?
レイチェル「俳優がプロデューサーを兼任すると、うまく行かないケースもあると知っていたけど(笑)、今回はギフト(贈り物)になった。ローレンス・フィッシュバーンら素晴らしいキャストを集める段階から、アクティブに頑張っているラミを見てきたの。撮影現場での彼は、つねに全体に目を配り、同時にこれから何が起こりそうかを予測していた。そんな風に作品全体を把握しながらも、撮影監督らエキスパートを信頼し、目の前にいる相手には“君しかいない”という態度で接する。間違いなくラミは名俳優で名プロデューサーね」
ラミ「レイチェルのような人に、そんなことを言ってもらえるなんて……。これほど嬉しいことはないよ」
ーーレイチェルは『アマチュア』が終わり、立て続けに『スーパーマン』の撮影をこなしたのですよね?
レイチェル「『アマチュア』の撮影後、数カ月で『スーパーマン』の現場に入った。とても長期間の仕事になったけど、『アマチュア』で強い風に乗って、その勢いに自分の羽を広げ、やりこなせた感じね。『アマチュア』の監督のジェームズも、次にDCコミックのグリーン・ランタンを主人公にしたTVシリーズ『ランタン』の製作に取り掛かったので、一緒に同じDCの世界を体験するという意味で、とても心強かったのも事実よ」
『アマチュア』4月11日公開
製作・出演/ラミ・マレック 原作/ロバート・リテル 監督/ジェームズ・ホーズ 脚本/ケン・ノーラン、ゲイリー・スピネッリ 出演/ローレンス・フィッシュバーン、レイチェル・ブロズナハン、カトリーヌ・バルフ、ジョン・バーンサル 配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
撮影=仲山宏樹 photo:Hiroki Nakayama
(C)2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.