警察に潜入したマフィアの内通者と、マフィアに潜入した覆面捜査官。対照的な立場にある2人が数奇な運命を辿る『ディパーテッド』(2006年)は、言わずと知れた香港映画『インファナル・アフェア』(2002年)のハリウッド・リメイク。これで悲願のアカデミー監督賞を手にしたマーティン・スコセッシにとって本作が彼のベストワークかと聞かれれば、答えに窮する。だが、覆面捜査官のビリー・コスティガンを演じるレオナルド・ディカプリオにとっては、常に危険と隣り合わせの日々に神経をすり減らすエリート警官の内面を抉り出すような熱演により、俳優としてターニングポイントとなった作品と言われる。それに異論はない。
この映画で話題になったのは、ビリーが愛用するどれも着やすそうで、反面、何の個性もないカジュアルウェアの数々だ。なかでも、ビリーが被っているレッドソックスの野球帽には意味があった。舞台がボストンだからという理由だけではない。劇中で、ビリーはベーシックな白のTシャツ、ネイビーのブルゾン、レザージャケット(ヴィンテージものが人気のMagnoli Clothiers製)、ルーズフィットのデニム、白いスニーカーをシグネチャーにしている。でも、本性が知れたら即命はないアンダーカバーというキャラ設定を考えると、没個性のアウトフィットや表情の変化が少しでも誤魔化せる野球帽は、文字通り必須アイテムなのだった。しかし、いくら隠しても映画界屈指の美しい四角顔は隠しようがなく、返って、鍔に隠れたレオの表情が観客を惹きつける結果になっているところが巧みだ。
同じく、本性がバレたらヤバい内通者、コリンを演じるマット・デイモンも野球帽を被って現れる。余談だが、マフィアのボス、コステロを演じるジャック・ニコルソンは、ボストン南部一帯を仕切る暗黒街のボスという設定なのに、なぜか、レッドソックスの帽子を被るのを頑なに拒否。このある種、都市伝説のような逸話が事実であったことを、後に共演のマーク・ウォールバーグが認めている。それによると、ニコルソンはNBAの人気チーム、ロサンゼルス・レイカーズの熱烈サポーターになる前は、ニューヨーク・ヤンキーズのファンだったらしく、衣装部がどう説得してもライバルチームの帽子は被ろうとしなかったというのだ。結果、劇中でコステロがトレードマークであるバケット帽のほかに、ヤンキーズのキャップをしれーっと被っているショットが残されている。ハリウッドスターと地域スポーツの関係ってエモ過ぎる。
そして、レオが野球帽を被り慣れているのは、私生活でもパパラッチの目を欺くための必須アイテムだから、という説がある。言われてみれば確かに。つい最近、イタリア人トップモデルのヴィクトリア・チェレッティ(既婚者)とのデートがパパラッチされた時も、いつものようにキャップ&Tシャツ&カーゴパンツというコーデだったレオ。でもこれ、今やシグネチャー過ぎて逆に目立ってしまうのではないでしょうか?
『ディパーテッド』
製作年/2006年 製作・監督/マーティン・スコセッシ 脚本/ウィリアム・モナハン 出演/レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン、マーク・ウォールバーグ、マーティン・シーン、アレック・ボールドウィン
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photo by AFLO