韓国映画のヒット作に必ずといっていいほど出演しているのが、名優ソン・ガンホ。シリアスな役からコミカルな役まで幅広く演じられる演技力は圧巻。今回は、数ある出演作のなかから5作品をセレクト!
『JSA』
製作年/2000年 監督・脚本/パク・チャヌク 共演/イ・ビョンホン、イ・ヨンエ、キム・テウ
味のある演技で評価を高めた!
“JSA”とは韓国と北朝鮮の国境線にある共同警備区域のこと。ここで北朝鮮の兵士ふたりが殺されたことから、中立国監視委員会は女性中尉を捜査官として派遣する。事件解決の鍵を握るのは、容疑者と見られる韓国軍兵長スヒョクと、そのときに撃たれて負傷したという北朝鮮軍の隊長ギョンピル。両者の証言は食い違うものの、真相は次第に明らかになる。その背景には両国間では決して許されない、国境を越えた友情があった……。
『シュリ』の好助演によって注目されたガンホが大役を務め、さらにその名を高めたエモーショナルなミステリー。大らかな性格で部下にも慕われている軍人ギョンピルを人間味たっぷりに演じている。友人をかばうための芝居じみた振る舞いなどの、泣かせる場面での味な演技も忘れ難い。後に『オールド・ボーイ』などで世界的な名声を得るパク・チャヌク監督、スヒョク役で共演したイ・ビョンホンにとっても、本作は出世作となった。
『殺人の追憶』
製作年/2003年 監督・脚本/ポン・ジュノ 共演/キム・サンギョン、パク・ヘイル
憎めない人間味ある刑事を好演!
韓国の農村で若い女性を狙った殺人事件が続発。地元警察のパク刑事と、都会から派遣されたソ刑事が中心となって捜査に当たる。ぶっきらぼうなパク刑事は、さっさと捜査を終わらせようと、容疑者でっちあげの暴挙に出ることも。対するソ刑事は論理的かつ冷静に捜査に当たるが、解決の糸口が見つからないまま新たな被害者を出してしまう。やがて目撃者の証言により、ついに容疑者が浮かび上がるのだが……。
『パラサイト 半地下の家族』で今や世界的な鬼才となったポン・ジュノ監督の出世作。サスペンスフルなドラマで社会性もあるが、一方で彼らしいユーモアが全編にあふれている。そんな笑いの部分の多くを担うのが、ガンホふんするパク刑事。犯人は陰毛のない男と決めつけて銭湯に張り込むなどの、ピント外れの捜査がおかしい。仕事ぶりは、いい加減で強引かつ乱暴だが、それでも憎めないのはガンホの人間臭い個性ゆえ、だろう。
『渇き』
製作年/2009年 監督・脚本/パク・チャヌク 共演/キム・オクビン、シン・ハギュン
ヴァンパイアになる神父を体当たりで演じた!
主人公サンヒョンは敬虔で真面目な神父。無力さにさいなまれた彼は老神父の勧めで、ワクチン開発のための被験者となることに。ところが、そこでの輸血により、身体能力が著しく向上。一方で、陽の光が苦手になり、吸血欲に憑かれるというヴァンパイアのような体質になってしまう。肉体の変化にとまどいつつも聖職に戻ったサンヒョンは、やがて旧友の妻テジュと知り合い、道ならぬ恋に落ちてしまう。それは彼の破滅のはじまりでもあった……。
『JSA』のパク・チャヌク監督と3度めのタッグを組んだガンホが10キロ体重を減量し、このスリラーで演じたのは、なんと吸血鬼! 欲を捨てたはずの聖職者が、吸血の欲望にさからえなくなったばかりか、肉欲も抑えられない。そんなブラックユーモアを体現しつつ、壮絶な運命のドラマを表現する。病院で輸血用の血を呑んだり、目覚める見こみのない昏睡状態の患者の血を頂戴したりの、涙ぐましい対処がユーモラス。
『弁護人』
製作年/2013年 監督・脚本/ヤン・ウソク 共演/イム・シワン、キム・ヨンエ、クァク・ドウォン
正義に目覚めていく弁護士を熱演!
1980年代初頭、軍事政権下の韓国、プサン。高卒だが独学で法律を学び、弁護士となったウソクは法廷には立たず、割のよい税務の仕事で家族を養っていた。そんなある日、恩人である食堂の女将の、大学生の息子が共産主義者のレッテルを貼られ、不当に逮捕・拘束されるという事件が発生。拷問を受け、自白を強要された彼を救うため、ウソクは弁護にあたる。しかし、それは自身を危険にさらすことを意味していた……。
後に韓国の大統領となったノ・ムヒョンの若き日の体験に基づく社会派ヒューマンドラマ。最初は家族のために金を稼ぐことしか考えていなかった弁護士が、法を逸脱した権力に怒りを覚え、社会正義に目覚めていく。そんな胸中の変化を、ガンホが鮮やかに体現する。法廷で怒りに突き動かされて怒鳴るのは常識的にどうかと思うが、ガンホが演じるとそこに人間味が宿る。彼の愛すべきキャラクターを再確認できるに違いない。
『パラサイト 半地下の家族』
製作年/2019年 監督・脚本/ポン・ジュノ 共演/チョ・ヨジョン、イ・ソンギュン、チェ・ウシク
ノンキな父親役で真骨頂を発揮!
下町にあるアパートの半地下の部屋で、肩を寄せ合って暮らす、失業中の4人家族、キム一家。ある日、息子が裕福なパク家で、女子高校生相手の家庭教師の仕事をはじめた。金ヅルを見つけたとばかりに、娘は家庭教師、父は運転手、母は家政婦として、家族であることを隠して、この山の手の上流家庭に入りこむ一家。そんなある日、パク家に地下室があることを知ったキム家の人々は、そこに隠されていた、ある秘密を知ってしまう……。
カンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞したばかりか、非英語作品でありながら米アカデミー賞の栄冠に輝く快挙を成し遂げた傑作。『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督と4度めのタッグを組んだガンホは、キム家の家長にふんして、格差社会の現実をユーモラスに体現する。「計画は無計画であること。計画しなければ想定外のことも起こらない」というナゾの哲学を持つ、ノンキな父親役は、まさにハマリ役。ラストの名演も印象的だ。
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