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2026.10.15 NEW

トム・クルーズ主演『DIGGER/ディガー』に込められた真意とは?
【来日インタビュー】アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督「観る人を“体験の探求”に誘いたい」

トム・クルーズが“非アクション映画”に挑んだのは、じつに14年ぶり。その最新作『DIGGER/ディガー』が、さまざまな反響を呼んでいる。世界の危機を招く、大富豪の石油王という役に、薄くなった白髪&ビール腹という特殊メイクで臨んだのはもちろん、作品の構成もトリッキーで、観た人は賛否両論の真っ二つ。だからこそ、自分の目で確かめたくなる、ある意味、問題作だ。

監督を務めたのは、メキシコ出身のアレハンドロ・G(ゴンサレス)・イニャリトゥ。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)で2年連続アカデミー賞監督賞を受賞した名匠。トムは彼の26年前の初長編作『アモーレス・ペロス』(2000年)に感激して以来、ずっと一緒に映画を作ることを望んでいた。念願のタッグについて、またトムの素顔について、来日したイニャリトゥ監督に単独インタビューを行った。

──『DIGGER/ディガー』をトムに打診したのは7年前とのことですが、その際、あなたがトムの元へ向かい、脚本を“読み聞かせ”たそうですね。

「そうなんだ。トムから“脚本を読んで”と頼まれた時は、ずいぶん変なお願いだと思った。その理由を聞くと、私がどう物語を解釈しているかを、声の出し方や“間(ま)”の取り方で把握したかったからだと言われた。自分なりの解釈で脚本を読むのは不安だという彼の気持ちを納得したよ。実際に私の朗読の間に、トムは私の込めた思いを何度も確認してきたし、私も自分のイメージをそのまま声に出すというのは初めての経験で、とても有意義な時間になったね」

──その後、トムは脚本に対して多くのアイデアを出したりしたのですか?

「いや、トムからのアイデアは、彼が演じるキャラクターに関してのものだった。映画の構成や全体像は、私自身が練りに練ったものだったが、キャラクターは外見も含めて未完成で、そこをトムと一緒に作り上げていった感じだ。彼は本当に熱心に取り組んでくれたよ」

──結果的に、あの別人のような外見が完成されたわけですが、特殊メイクを手がけたのはカズ・ヒロ氏です。

「カズの仕事はめちゃくちゃ緻密。これまでの作品で、私はウィッグやメイクに満足できないことが多かった。どうやっても作り物に見えてしまったからだ。しかし今回、カズが仕上げたのは、本物の人間の皮膚と何ひとつ変わらなかった。肌の色味から血管に至るまで、リアルなアメリカ人になっていたんだ。しかも“ディガー”というキャラクターを完成させながら、トムの目元はしっかり残しており、他の誰もマネできない技術と芸術性に圧倒されたね」

──つまり外見を変えても、中身はトムでないとダメだったわけですね。

「そう。メイクはセーターやジャケットのようなもの。重要なポイントではあるけれど、瞳や筋肉、声、そして全体の動きを、トムがやることに意味があったのさ」

──俳優という仕事を離れ、トム・クルーズの人間としての魅力はどんなところでしょう?

「トムは(出身はニューヨーク州だが)まるで南部出身のジェントルマンのようで、とにかく礼儀作法が一流。女性が近づいてきたら必ず立ち上がるし、すべてのスタッフに思いやりをもって接する。必ず相手の目を見て話を聞き、仕事のやり方を確認したりする。あれだけ顔を知られているスターなら、不満をもらしたくなる時もあるはず。でもトムは絶対にそんな態度はとらないんだ」

──今回の来日でも、長い時間をかけてファンサービスを行っていました。

「本当にびっくりだよ。トムに“そこまでやって疲れないの?”と聞いたら、“全然。サインするのは一瞬で、僕には大した負担じゃない。でもその行為が相手にとっては、幸せを感じたり、病気の人なら元気になったりと大きな意味を持つわけだから”と説明された。自分の映画を観てくれた人に恩返ししたい気持ちが強いんだよ。誰かに何かを与え、それ以上のものを受け取るという精神を実践してる。寛大さも含め、トムから学ぶことは多いね」

──映画の中盤、多くの聴衆の前でトムが10分ものモノローグ(演説)をこなすシーンが大きな見どころになっています。しかもそれを、あなたはワンカットで撮影しました。

「とても難しく、挑戦的で、同時に美しく仕上がったと思う。あのシーンを最初にテストしたのはカナダで、2019年のこと。聴衆の人数や座席の間隔などあらゆる要素を検証し、リハーサルも重ね、納得のいくかたちになるまで長い時間がかかったんだ」

──今回、すべてスタジオ(ロンドンのパインウッド)にセットを組んでの撮影で、それもあなたにとっては初めてでは?

「この物語の本質は、政治家が密室で世界の行く末を決定すること。部屋でモニターを見て判断するわけで、カメラを外に持って行く必要もなかった。森など過酷な自然の中での撮影で、多くの困難を要した『レヴェナント:蘇えりし者』と違って、照明でコントロールできるし、温かいお茶を飲むこともできるセットは快適だったよ(笑)」

──同じメキシコ出身のギレルモ・デル・トロ、アルフォンソ・キュアロンからは、今回の『DIGGER/ディガー』に助言をもらったりしたのですか?

「編集段階の映像を観てもらい、有益なアドバイスをもらった。監督というのは孤独な仕事だけど、同じ国の出身で同世代の彼らと長い年月、友情で結ばれているから心強い。3人とも作品のタイプは違うけどね。ギレルモの『フランケンシュタイン』(2025年)は彼自身、満足のいく作品になったようで、私もうれしい。われわれが出会った頃から『フランケンシュタイン』は彼の念願だったからね。そしてアルフォンソは丸2年もかけてシリーズものの『ディスクレーマー 夏の沈黙』(2024年)を完成させた。映画6本分くらいの労力をかけ、濃密な作品を仕上げた。これも喜ばしいことだ」

 

※ここから先は『DIGGER/ディガー』のネタバレにつながる内容を少し含みます。

 

──映画の内容や展開について、冒頭の猫の妙な“違和感”などがヒントになりますが、どんな伏線を仕掛けましたか?

「セットの美術、俳優の演技は、最初から“人工的”であるように演出している。俳優の声のトーンは、舞台の芝居のように響かせるスタイルだ。そうなると演技も大袈裟に見える。ただ、あまりに人工的にするとテレビ番組に見えてしまうから、そのさじ加減は苦心したな。映画を観ている人が“ここは一体、どんな場所か”と気づいた瞬間、すべて合点がいくように伏線を張り巡らせた。単なるトリックではなく、表現方法を少し変えるだけでね」

──予備知識ゼロで観るのが最善なのは間違いないですよね。

「観る人を“体験の探求”に誘いたいんだ。そうすると驚きも大きいわけだけど、たしかに作品を紹介するうえで制約も生まれるから、悩ましい……」

──“過去に作られたことのない”作品を目指すのが、あなたの志向なのでしょうか?

「そういうわけではないが、今回“演劇”という要素を使ったのは、われわれが生きる騒々しい世界を滑稽に風刺するうえでふさわしかったから。たしかに異なる方法で物語を伝えたい気持ちはあり、関心のある物語を最良のスタイルで試みた結果、こうした作品は生まれるんだ。これを観た人、特に若い人には“耳にする情報が必ずしも現実ではない”と理解してほしい。自ら現実を体験しなければ、他者が作り上げた物語に迷い込んでしまう。そして言葉は危険な武器になるというのが、本作の核心だよ」

──では最後に、以前『バベル』を日本でも撮影しましたが、また日本で何か撮りたいという気持ちがあるか聞かせてください。

「もちろん! ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』(2023年)を観て、ちょっと羨ましかった。もしぴったりの物語が思い浮かべば、明日にでも撮影を始めたいくらい。それほど日本の街は、私にとって最高のロケ地なんだ。ただし今は『DIGGER/ディガー』を完成させたばかりでヘトヘト。(インタビューがホテルの部屋だったので)そこのベッドで休みたいのが本音かな。次回作は『Rest(休息)』というタイトルが浮かんでしまうよ(笑)」

『DIGGER/ディガー』
絶賛上映中!

 
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
© 2026 WBEI and Legendar
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