
ハリガン家のトラブルを解決するフィクサー、ハリー・ダ・スーザ役を演じるトム・ハーディ
2025年に〈Paramount+〉で配信開始され、現在、日本では〈ネットフリックス〉などで視聴可能なドラマシリーズ『モブランド』をご存じだろうか? あからさまなタイトルからギャング物であることは容易に察しがつく。だがこれがありきたりのジャンルの枠に収まると思ったら大間違いだ。
まずもって最初の抗いようのない魅力は、舞台を『英国』に据えたところに香りたつ。つまり、ニューヨークやLAを拠点にしたアメリカ式ギャング物とは全く異なる雰囲気がみなぎっているのだ。とりわけ1、2話の監督を務め、シリーズのエグゼクティブ・プロデューサーを担うガイ・リッチーによる味付けは鮮烈で、彼のドラマシリーズ『ジェントルメン』とも根本的に違う硬派な緊張感と振れ幅が楽しめる。
エグゼクティブ・プロデューサーを務めるガイ・リッチー
いざ作品の扉を開くと、そこに広がるのはロンドンの一大勢力『ハリガン家』の相関図。頂点には一族の家長コンラッド・ハリガン(ピアース・ブロスナン)が君臨し、豊かな自然に囲まれたコッツウォルズのお屋敷では妻メイヴ(ヘレン・ミレン)がグラスを片手に飄々と客人をもてなし、彼ら夫婦にはケヴィン(パディ・コンシダイン)をはじめとする3人の子供たちが存在する。
写真左から、家長コンラッド・ハリガンを演じるピアース・ブロスナン、敵対するギャング一家だけでなく自らのファミリーさえもかき回す悪妻メイヴ役のヘレン・ミレン
そして物語は、ケヴィンの息子であり問題児のエディ(アンソン・ブーン)がバーで致命的な傷害事件を起こし、問題解決のために一人の男が遣わされるところから始まっていく。
彼の名はハリー・ダ・スーザ(トム・ハーディ)。屈強な体格と迫力満ちた眼力、瞬時に最良の答えを導き出す明晰さ、チェスの駒を進めるような交渉力、それに幅広い人脈を持ち、一族の誰もが厚い信頼を寄せる専属の”フィクサー”だ。そう、本作のもう一つの持ち味は、このハリーの視点で全てを語ろうとするところにあるのだ。
トム・ハーディ演じるフィクサー役が秀逸!
これほどの職能と腕っぷしの強さゆえ、ハリーの経歴はきっと相当なものに違いない。だが、第1シーズンで際立つのは、むしろ彼の心情的な部分だ。
彼はプライベートにおける家族(妻と娘)にまつわる悩みを抱えつつ、しかしハリガン家の面々が引き起こすありとあらゆる問題に対処するため、毅然とした態度で駆けずり回らねばならない。その精神性を象徴するハリーの台詞がある。
「この宇宙では日々いろんなことが起こる。その理由を考えるより、まず処理するのが俺たちの仕事だ」
かくも彼のハリガン家に対する忠誠心は絶対であり、微塵もブレることがない。トム・ハーディがこの内面と外面、双方に思い切り突き抜けた人間的な凄みを見事なまでの重厚感で体現しており、全てを見通す彼の視座があるからこそ、我々はエピソードごとに心拍数を乱高下させながら、それでも決して振り落とされることなく身を委ねることができるのだ。
写真左からハリーの妻ジャン・ダ・スーザを演じるジョアンヌ・フロガット、ハリガン家の次男ケヴィンの妻イザベラ・ハリガン(ベラ)役のララ・パルヴァー
回を追うごとに怪物化していくふたり
そしてもう一つ。あなたが想像する2倍、いや2.5倍くらいピアース・ブロスナンが強烈だ。かつてジェームズ・ボンド役で培ったエレガントさを破り捨てるかのように、本作では冷静に振る舞ったかと思えばいきなり怒髪天を抜く勢いで感情を露わにし、粗野で獰猛でカリスマ的で、なおかつ危なっかしく黒光りするブロスナンがそこにいるのだ。
これを決定づけたのが「アイルランド風でいく」という方向性だ。裏話をひとつ披露しておくと、ブロスナンが最初の5話分の脚本を受け取った際、そこにはまだ「アイルランド」要素は盛り込まれていなかったそう。なので、てっきりロンドンの下町的な訛りで演じるものと思っていたら、ガイ・リッチーから思いがけず「アイルランド訛りで行こう!後はなんとでも調整できるから!」というアイディアが出たらしい。そうやってこのドラマには、アイルランド出身のブロスナンがそこに息づく理由がひときわ明確化されていったのだ。
また、妻役のヘレン・ミレンは、ブロスナンと『木曜殺人クラブ』(2025年)で共演したばかりの間柄。その時の相性がよほど良かったのか、奇しくも今回のドラマのオファーをほぼ同時に受けた際、「あなたがやるなら私もやる」といった具合に、互いの背中を押し合うような形で参加を決めたという。
当然ながら、オスカー女優のミレンが残す印象もさすがだ。数々の”女王役”で知られるだけあって、本作の「ギャング一家のクイーン」的な役回り、もしくはシェイクスピア作品における『レディ・マクベス』的な立ち回りはお手のもの。しかもエピソードを追うごとに、危なっかしい毒蜘蛛のような存在感は勢いを増していく。
夫コンラッドの内に秘めたる魂がアイルランド一色ならば、妻メイヴもまた同じ。現代英国を舞台にしたドラマではあるものの、どうやらこの夫婦にはお互いの胸中でのみ共有された人生、原風景、価値観というものがあるようだ。その辺りを少しだけ念頭において臨むと本作がいかに型破りなドラマかがよりお分かりいただけるだろう。
通常のギャング映画の常識から思いっきりはみ出た狂気と混沌と痛快さを併せ持つ本作。「先読み不能」とはよく言われるが、本作は撮影とほぼ並行して脚本が書かれていたため、演じる本人たちも演じる直前になってようやく自らの運命を知るといった具合だったようだ。そんな一筋縄ではいかないドラマだけに、いざ見始めると回を追うごとに熱量を増す異様な魅力に釘付けになること間違いなし。
本国では今まさに第2シーズンが絶賛配信中だとか。その日本到来に備える上でも、未見の方はぜひ、今のうちに第1シーズンをチェックしてみてはいかがだろうか?
参考記事:https://www.indiewire.com/features/interviews/pierce-brosnan-mobland-interview-finale-1235129673/
photo by AFLO








































































