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ルーク・エヴァンス


リュック・ベッソン監督は、セットに俳優以外入れないので空気がいっさい、壊れない。俳優として、そんな体験は初めてだったよ。


ルーク・エヴァンス

『ワイルド・スピード』シリーズに登場する冷酷な悪役や『ホビット』シリーズで活躍する弓の名手など、大人気フランチャイズ映画の一員としても知られる英国人俳優ルーク・エヴァンス。180cmを超える長身に骨太な体型で、存在感たっぷりの悪役も、正義のヒーローもよく似合う。しかも、『美女と野獣』で演じたガストン役が物語るように、歌もダンスもこなすマルチな才能の持ち主。10代で芝居と音楽の魅力に目覚め、ウエストエンドの舞台ミュージカルで何度も主演を張った後、エヴァンスは映画界、そしてハリウッドへと活躍の場を広げた。

「僕の履歴書はかなり面白いよ。17歳のころに出た短編映画では、"オリンピック選手のように、泳ぎながらターンをして"と言われた。実際の僕はクロールでさえ水を飲んでしまうのに、"できます"と言ってプールで練習したんだ。俳優の特権のひとつは、"ノー"と言わなくていいことだと思う。そうすれば、『ドラキュラZERO』で吸血鬼ドラキュラになった後、"人の首に噛みつき、コウモリになれます"と履歴書に書けるしね。そうやって、僕はいろいろな役を楽しんできたんだ」

そんな彼の出演最新作が、フランスのヒットメイカー、リュック・ベッソン監督の『ANNA/アナ』だ。タイトル名にもなっている美貌の殺し屋アナを主人公にした本作は、ベッソン監督の過去作『ニキータ』を彷彿とさせるサスペンスアクション。ソ連の諜報機関KGBに所属するアナが、恵まれた容姿と身体能力を駆使して危険な世界を駆け抜ける。エヴァンスが演じるのは、どん底の生活を送っていたアナを見出し、KGBにスカウトするベテランのエージェント、アレクセイだ。

「アナの前に現れたアレクセイは、彼女が自分の思ったとおりの人物かどうかを静かに見極める。そして、人生を変える機会を与えるんだ。軍人の父親を持つアナは幼年士官学校で訓練を受けたことがあるにもかかわらず、両親の死をきっかけに天涯孤独となり、学校を去らなければならなかった。アレクセイはアナのわずか19年という人生の中にポテンシャルを見出したのだろうね。KGBの殺し屋として育てるべく、彼女の唯一の庇護者となるんだ。はじめてアナに会ったときのアレクセイの心中は、正直なところわからない。けれど、アナとアレクセイはすぐに惹かれ合うようになるんだ」

「軍事訓練1年、現場勤務4年、その後は自由」との条件を掲げてアナを導くアレクセイと、彼の言葉を信じて任務に励むアナ。アレクセイの真意が読めないのは初対面のシーンに限ったことではないが、エヴァンスはアレクセイという男の背景を独自に考え、彼に人間らしさをもたらした。

「KGBのスパイや殺し屋は、とても孤独な仕事だ。人生の多くを異国で過ごし、偽名を名乗り、まわりには友人も家族もいない。常に命の危険にさらされている状況なんだ。冷酷さを見せたかと思えば、スイッチを切り替えて人間味や温かさを見せる。アレクセイも普通の男と同じように、人を愛し、大切にしたいと望んできたが、国に人生を捧げ、その望みを叶える機会を逃してきた。普通の人にはできないことだよ。最前線で戦う兵士は、軍人の家系出身であることが多い。きっと、アレクセイもそうなんじゃないかな。撮影前のトレーニングにはかなりの時間をかけたけど、鍛え上げた肉体を見せるためじゃない。厳しい訓練を積んできた男が、どのように動き、考えるかを理解したかったんだ」

エヴァンスがアレクセイへと繊細に注入した人間らしさは、実は少々面白い形でも顔を出す。そのきっかけとなるのが、キリアン・マーフィ演じるCIAの諜報員レナードだ。アナをCIAに囲いこもうとするレナードは、アレクセイの恋敵的存在に。祖国も敵対中なら、人柄も正反対の2人の劇中衣装に関し、衣装担当のオリヴィエ・ベリオは「アレクセイには見栄えの悪いレザージャケットにごわごわしたタートルネックのセーターを着せ、エレガントなニューヨーカーのレナードにはシックな〈エルメネジルド ゼニア〉のスーツと〈ランバン〉のコートを着せた。ルークはがっかりしていたよ。おかげで、アレクセイの嫉妬心を表現することができたんじゃないかな」とコメント。なかなか興味深い撮影秘話だが、エヴァンスが気の毒なのは確かだ。なにせ彼は、映画界のファッショニスタでもあるのだから。2016年4月、〈バリー〉の銀座店がオープンした際には、はじめての来日も果たしている。

「東京は、僕がこれまで訪れた中で最も美しい場所のひとつ。街全体が魔法にかかっているかのようだったよ。幸運だったのは、桜の花も少しだけ見られたこと。すごく美しかった。思い出すだけで、またすぐに行きたくなるよ」

残念ながら今年の桜を見てもらうことはできなかったが、いずれまた。その日が楽しみだ。



[PROFILE]
1979年、イギリス生まれ。ロンドン・スタジオ・センターで学んだ後、舞台俳優として活躍。映画界に進出し、『タイタンの戦い』『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』『インモータルズ −神々の戦い−』などで注目を集める。『ホビット 竜に奪われた王国』『ホビット 決戦のゆくえ』で世界的スターに。ほかの出演作に、『ワイルド・スピード EURO MISSION』『ハイ・ライズ』『美女と野獣』など。日本公開待機作に、豊川悦司、浅野忠信らと共演した『ミッドウェイ』(原題)がある。


  • 『ANNA/アナ』

    モスクワでドラッグ漬けの生活を送っていたアナは、KGBの諜報員アレクセイ(エヴァンス)の手で殺し屋へと成長。ファッションモデルとして活躍しながら、国家の敵を次々と消し去る任務に励んでいた。そんな中、CIAがアナに接触。自由を夢見る彼女は、CIAから二重スパイになるよう持ちかけられる。監督は『LUCY/ルーシー』などのリュック・ベッソン。●5月8日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー

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写真=Shutterstock / アフロ 文=渡邉ひかる

2020-04-15