フランス屈指のラグジュアリーメゾンである一方、高級機械式時計においても特別な存在感を放つ〈エルメス〉。その開発を担うのが、1978年にスイスのビエンヌに設立された時計部門の〝エルメス・オルロジェ〞だ。現在そのCEOを務めるのは、ローラン・ドルデ。〈エルメス〉のシルク部門とプレシャスレザー部門の最高責任者を歴任。研ぎ澄まされた審美眼を持つ彼は、果たして〈エルメス〉の腕時計にどんな価値を見出しているのだろうか。さっそく聞いてみた。
「〈エルメス〉の腕時計の歴史は、スイスの老舗と比べれば日が浅いもの。しかし時計自体の品質においては、そうした老舗と変わらない最高の技術を提供しています。そのうえで、フランスならではの豊かな創造性でオリジナリティや驚きをもたらす時計でありたい。こうした哲学は、他の自社製品と変わりません」
新作の時計開発には、機構が複雑になればなるほど年数を要するが、初期の段階ではクリエイティビティを自由に発揮できる環境作りを大切にしているという。
「そうした企業風土によってサプライズを生み出せるのです。開発スタッフには、常に私を驚かせてほしいというメッセージを伝えています。最近でいえば、今年1月に発表した“アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ”には驚かされましたね」
この時計の文字盤の主役は、北半球と南半球の月齢を表示する2つの大きなムーンフェイズ。それらの縁を沿うように時分と日付表示のスモールダイヤルが廻るという独創的なデザインは、驚きと新鮮さに満ちあふれている。「スタイルにおいても機構においても、みなさんにワクワク感を提供したい」。そう語るドルデが演出する次なるサプライズに期待したい。
写真=仲山宏樹 文=遠藤 匠
2019-10-25