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ジェイミー・ドーナン


今、この物語を伝えるのが重要なのは、世界中でいまだに、善良な市民が酷い目に遭っているから。


ジェイミー・ドーナン

誰がどう見ても、完璧なハンサムガイ。なにせ、美意識の高さに定評のある女性監督ソフィア・コッポラが、長編映画に出演した経験すらない彼の容貌に惚れこみ、自身の監督作『マリー・アントワネット』における極めて重要な役、"マリー・アントワネットの恋人"をオファーしたほどなのだから。映画界のお墨付きはもらったといっていい。その幸せなデビューから9年後、映画にドラマに着実なキャリアを積み重ねていたジェイミー・ドーナンは、映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』に主演。サディスティックな性癖を持つ美形大富豪と純真な女子大生のロマンスが展開する本作は、社会現象を巻き起こした官能小説を原作にしており、映画化決定の時点から大きな話題に。ドーナンが演じることになる大富豪クリスチャン・グレイのキャスティングにも、当然のように注目が集まった。結果、ドーナンはやはりその容姿で幾多の原作ファンを納得させ、映画は欧米を中心に大ヒット。3部作で完結する人気シリーズとなった。

となると、日本でいうところの"イケメン俳優"にカテゴライズされるだろうし、実際、外見を生かした役も何度となくこなしてきたが、それだけではない魅力がジェイミー・ドーナンにはある。『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』での世界的ブレイクに前後し、3シーズンにわたって出演していた英国ドラマ『THE FALL 警視ステラ・ギブソン』では、複雑な内面を持つ連続殺人鬼を怪演。残忍でありながら、なぜか目の離せないチャーミングな犯罪者として、主人公の女性警視ステラ・ギブソンを翻弄していた。また、第二次世界大戦下を舞台にした映画『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』では、"ナチス・ドイツのNo.3"といわれたラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画に身を投じる青年に。祖国のため、平和のため、すべてをなげうつことになる人間の悲劇を繊細かつ哀愁たっぷりに体現していた。

そんなドーナンも、現在37歳。俳優業におけるチャレンジング精神は変わらず、日本公開中の映画『プライベート・ウォー』に出演。世界中の戦地に赴き、戦争の真実を発信してきた女性記者メリー・コルヴィンの半生を描いた本作は、ドーナン曰く「我々に真実を届けるために自分をなげうち、素晴らしい行動を取った女性の感動的な物語」。その中で、ドーナンはリバプール出身の戦場カメラマン、ポール・コンロイを演じている。

「ポールは仕事をしている中で、メリーと出会う。映画では、実際よりも早い時期に会う設定になっていて、2人は多くの戦地に向かうんだ。ポールとメリーはいつも一緒にいる。メリーが命を落としたときも2人は一緒にいて、ポールも重傷を負った。2012年、シリアでのことだよ。ポールは三枚め的なキャラクターで、よく冗談を言う男。仕事のできる人で、素晴らしい写真を撮るんだ。彼には恐怖心がなく、人生におけるどんなことに対しても恐れを抱かない。ポールほど恐れを知らない人に、僕は会ったことがないね。それは、彼がたくさんの死を目の当たりにしてきたからだと思う」

ドーナンの言うように、実際のメリーは取材活動で命を落としているが、ポールは存命。撮影現場に、ポール本人がやって来たこともあるという。

「とても貴重で、ありがたいことだった。最初のうちは少し気まずくて、モニターを見ないようにしてもらったりもしたけどね。でも、最初の2日間くらいのことだよ。僕としては彼のアクセントを真似るのが結構大変で、本人の前で演じるのが本当にやりづらかった(笑)。ものすごいプレッシャーだったよ。でも、彼と仲良くなってからは、そばにいてくれるのがすごく嬉しかった」

スリランカ、イラク、リビア、アフガニスタン、シリア。劇中に登場する戦場シーンはすべて、ヨルダンで長期ロケを敢行し、撮影されたそうだ。

「ヨルダンで撮影したのはすべて戦地のシーンで、映画の40%くらいを占めていると思う。撮影は大変だったよ。楽な撮影は1日もなかった。映画では、実際のシリア難民にエキストラとして出演してもらっているんだ。彼らにとっては、つらい過去を掘り起こす経験だったと思う。暴力的なシーンがある撮影のときは、過去を思い出して泣き崩れたりもしていた。ものすごく胸が痛んだよ」

それでもなお、メリー・コルヴィンの物語、彼女と運命をともにしたポール・コンロイの物語を、大勢に向けて語らなくてはならない。ドーナンの胸の内には、そんな思いがあったようだ。

「今、この物語を伝えるのが重要なのは、世界中でいまだに、善良な市民が酷い目に遭っているから。そういった状況を伝えようとする人にもっと光を当て、情報と真実を得ることが大切だと思う。メリーとポールは自らの命を懸け、人々を助けようとした。なのに、まだなにも変わっちゃいない」

外見だけでなく、考え方も男前。これからの活躍も、ますます楽しみになってきた。



[PROFILE]
1982年、北アイルランド生まれ。〈カルバン・クライン〉〈ジョルジオ アルマーニ〉など、有名ブランドで活躍する人気モデルを経て、俳優に転身。デビュー作の『マリー・アントワネット』をはじめ、『ワンス・アポン・ア・タイム』『THE FALL 警視ステラ・ギブソン』『ルイの9番目の人生』『ジャドヴィル包囲戦 6日間の戦い』などに出演。『フィフティ・シェイズ』シリーズのクリスチャン・グレイ役で一躍人気者に。10月18日公開の『フッド:ザ・ビギニング』にも出演している。


  • 『プライベート・ウォー』

    英国サンデー・タイムズ紙の特派員メリー・コルヴィンは2001年、スリランカでの銃撃戦に巻きこまれて被弾。片目を失ってなお、戦場記者として戦地に赴き続ける。そんな中、メリーはバグダッドでフリーのカメラマン、ポール・コンロイ(ドーナン)と出会い、自身の取材に同行させるように。以来、2人で戦地の真実を目の当たりにする一方、メリーの心は徐々に蝕まれていく。●TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中

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写真= Gareth Cattermole / Contour by Getty Images 文=渡邉ひかる

2019-09-13