米国の歴代大統領のスーツを手掛け、アメリカントラッドの様式美を体現し続けている〈ブルックス ブラザーズ〉。今年で創設201年め。イタリア出身のクラウディオ・デル・ヴェッキオは、そのC E Oを務めている。イタリア育ちの彼は、どんなことにブランドのアイデンティティを見出しているのだろうか。
「〈ブルックス ブラザーズ〉は、伝統ある偉大な企業です。私たちは築き上げてきた文化を守り続けなくてはなりません。ただ、その一方で、イノベーションも忘れてはなりません。時代の移り変わりとともに顧客のニーズは変わりますからね」
しかし2001年にCEOに就任した当初は、伝統の危機に直面していたという。
「当時のアメリカは、カジュアル全盛の時代。そうした時代の声に耳を傾けすぎて、ボタンダウンシャツやブレザーといったブランドの根幹をなす製品の大切さを忘れ、カジュアル志向の商品に注力しすぎてしまったのです。イノベーションも大切ですが、それ以前の問題として、本来持つ強みや伝統を忘れかけていたのです」
そんなとき、ブランドを愛する顧客から寄せられた声のおかげもあってそのことに気づいたデル・ヴェッキオは、原点に立ち返ることを決意。ブランドを象徴するアイテムは米国内で製造する体制を強化し、品質にはとことんこだわった。ブランドアイコンのゴールデン フリースを描いたブレザー用ボタンも、一度は姿を消したものを復活させ、古くからの顧客を喜ばせた。その結果、スーツに加え、カジュアルウエアの売り上げも好調に推移する好循環が生まれている。土台となる伝統を取り戻した老舗が、これからどんな革新を見せてくれるのか。楽しみで仕方がない。
写真=正重智生 文=遠藤 匠
2019-09-13