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チャーリー・ハナム


僕たち自身のものを作り、自分たちを解放するために、僕はオリジナル版など存在しないようなふりをした。撮影が半分以上進むまで、オリジナル版を改めて観ることはしなかったよ。


チャーリー・ハナム

日本でも大ヒットを記録した『パシフィック・リム』などに主演し、映画ファンなら誰もが知るスター俳優となったチャーリー・ハナム。『ファンタスティック・ビースト』シリーズのエディ・レッドメインから、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ヒドルストンといったマーベル映画のヒーローたちまで。ハリウッド大作の中心を担うイギリス人俳優も少なくない昨今だが、チャーリー・ハナムもハリウッドで活躍し続けてきたイギリス人俳優の1人。ただし、先に挙げた3人が英国紳士然とした雰囲気を魅力にしているのに対し、ハナムの武器は、アメリカンマッチョな役柄にも余裕ではまれる存在感。俳優デビュー後まもなく移り住んだアメリカ西海岸の水がよほど合っていたのか、今となっては「えっ。君はイギリス人だったのかい?」と驚かれることもしばしばだそうだ。

そんな彼の持ち味が幸運な形で開花したのは、2008年から7年間にわたって出演し続けた犯罪ドラマ『サンズ・オブ・アナーキー』のとき。カリフォルニアにある架空の町を舞台にした同作で、ハナムは犯罪に手を染める地元バイカー集団の青年ジャックスを演じた。おそらく、金髪をなびかせながら厳ついバイクを乗りこなし、組織の抗争や仲間、家族との問題に思い悩むジャックス役がはまりにはまっていたため、いまやアメリカ人と思われることが多いのだろう。演じ続けた7年の間には、放送映画批評家協会賞の主演男優賞に2度ノミネート。映画界での出世作となった『パシフィック・リム』への出演も、ジャックス役での好演を足掛かりにしてのことだった。

外見は見るからにタフで頼もしいが、内面にはどこか繊細さも。『サンズ・オブ・アナーキー』のジャックス役や『パシフィック・リム』で怪獣と戦う敏腕パイロット、ローリー役の中に見られた気質は、その後に挑んだ役柄でもたびたび顔を出すことに。『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』ではアマゾンの奥地を行く孤高の探検家を、『キング・アーサー』では数奇な運命を背負ったヒーローを演じ、タフな存在感と内に抱える複雑な心情を表現した。さらに、脱獄映画の金字塔をリメイクした新作『パピヨン』では生と自由を諦めない受刑囚に。名優スティーブ・マックイーンがかつて熱演した役に挑んでいる。確かに、冷静な目で見れば、無実の罪で投獄され、過酷な環境に身を置きながらも、タフに生き抜こうとする受刑囚パピヨンは、ハナムにはまる役だといえるかもしれない。とはいえ、44年前に同役を演じたのは、あのスティーブ・マックイーン。演じるうえでの葛藤は、計り知れないものだったようだ。

「僕の青春時代にとって、オリジナルの『パピヨン』はとても重要なものだった。何度も観たし、原作小説も2度以上読んでいる。実は最初、役を断ったんだ。だけど、僕はそのことについて考えるのをやめられなくなった。パピヨン役は非常に危険な領域だと思う。スティーブ・マックイーンが素晴らしい仕事をしたからね。もちろん、彼と競う気はない。彼はいつだって最もクールで偉大だ。だから僕は、僕たち自身のものを作り、自分たちを解放するために、オリジナル版など存在しないふりをした。撮影が半分以上進むまで、オリジナル版を改めて観ることもしなかったよ」

また、ハナムには大事な相棒もいた。ともに脱獄を試みる受刑者仲間を演じたラミ・マレックだ。『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じたマレックは、出演作の絶えない売れっ子。一時は出演が危ぶまれたが、彼に惚れこんだハナム自ら、電話をかけて説得したそうだ。

「"ブラザー、やり抜こう! この映画を俺たちで実現させるんだ!"とね。そのとき、僕らはまだお互いをよく知らなかったけど。でも、彼は僕を受け入れてくれたんだ」

ハナムの説得が正しかったことは、劇中の彼らを見ればよくわかる。そして、ハナムがパピヨンを演じるべきだったことも。自由を渇望するパピヨンのサバイバルと友情の物語が、胸の奥をえぐってくるからだ。まさに「やり抜いた」ハナムは、こうも語っている。「この映画には人を惹きつけるアクションやドラマが盛りこまれているけど、軸には友情の物語があるんだ。非常に厳しく凶暴な場所において、互いを思いやる人間の姿が描かれている。耐え忍ぶ男の意志の証がね」

日本での公開時期は前後するが、『パピヨン』の後はネットフリックス配信の映画『トリプル・フロンティア』に出演。南米の麻薬王から大金を強奪する元兵士を演じている。『トリプル・フロンティア』の物語の鍵を握るのも『パピヨン』と同様、運命をともにする仲間との友情だ。タフ、繊細、それに加え仲間思い。"チャーリー・ハナム"という存在が、役柄を通してどんどん広がりを見せている気がして面白い。



[PROFILE]
1980年、イギリス生まれ。英国ドラマ『クィア・アズ・フォーク(原題)』で演じたゲイの高校生ネイサン役が絶賛され、若手俳優として頭角を現す。『ディケンズのニコラス・ニックルビー』で映画初主演を果たした後、『コールド マウンテン』『フーリガン』『トゥモロー・ワールド』などに出演。今後の公開待機作に、ボクサーの弟と試合に向けた旅に出る『ジャングルランド(原題)』、『キング・アーサー』のガイ・リッチー監督と再びタッグを組んだ『ザ・ジェントルメン(原題)』などがある。


  • 『パピヨン』

    1931年、パリ。無実の罪で終身刑となったパピヨン(ハナム)は、フランス領ギアナの悪名高い流刑地へ。脱出不可能な場所で、死ぬまで過酷な強制労働を科せられることになる。それでも自由への道を諦めないパピヨンは脱獄資金を得るため、囚人仲間のドガを計画に引き入れることに。やがて2人は奇妙な友情で結ばれるが……。●6月21日より、TOHOシネマズ シャンテほかにてロードショー

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写真= Dan MacMedan / Contour by Getty Images 文=渡邉ひかる

2019-05-31