PEOPLE*


このストーリーには信じられないほどの優しさが吹きこまれている。
優しさが染み渡っているし、作品全体に希望や遊び心が行き渡っている。


コリン・ファレル


コリン・ファレル

アイルランドから彗星のごとく現れ、ハリウッドスターとして着々とキャリアを積み上げてきたコリン・ファレル。男くさい顔立ちと確かな演技力、通好みのする作品選びで築いてきたフィルモグラフィは映画ファンにこそ大好評だが、出演作のすべてが一般に広く知れ渡っているとはいいがたいかもしれない。

そんなコリン・ファレルが、おそらく公開後には老若男女が劇場に駆けつけるであろう映画『ダンボ』に出演。タイトルからわかるように、往年のディズニーアニメを実写化した作品だ。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』など、これまでもファミリー向けの大作と縁がなかったわけではない。だが、"配偶者のいない人間は動物の姿に変えられてしまう"世界を生きたり(『ロブスター』)、"欲望うごめく女子寄宿学園に迷いこむ兵士"を演じたり(『The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ』)。近年特にダークな作品を好んできた人が夢いっぱいの世界で、大きな耳のかわいらしい子象と触れ合うとなれば……。これはちょっとした事件だ。

「コカイン中毒の汚職刑事(『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』)ばかりを演じてはいられないからね(笑)。ただし、『ロブスター』のときもこう言われたよ。"あなたには珍しい作品ですね"とね。つまり、『ダンボ』のティム・バートンも、『ロブスター』のヨルゴス・ランティモスも卓越した独特のビジョンの持ち主であり、僕は彼らのような監督との仕事を求めている。役者に稀有な機会をもたらす作品をね。ティムに関してはもう何年もの間、彼の作品に出演したいと願い続けてきた。だから、彼の想像力や創造性に触れられる機会を存分に楽しんだよ」

演じるのは、サーカスの元看板スターであり、戦争から戻ってきたばかりの男。従軍中に妻を失い、幼い子供2人を抱えるホルトは、ダンボの世話係を務めることになる。

「僕は彼のことが大好きだ。ホルトはシンプルな男で、戦争に行く前は望む生活を送れていた。サーカス団の看板スターとして妻との生活を楽しみ、2人の子供にも恵まれたんだ。けれど、戦争がすべてを変えてしまった。数年の従軍を経て戻ってきたときには、左腕を失っていて、妻は他界。子供たちとはすっかり疎遠になってしまっている。悲しみに溺れている彼は、親としてどう振る舞えばいいのか、子育てをどうすればいいのかもわからない。そんな彼に、大きな耳を使って宙を舞うダンボの奇跡が希望を与える。とても美しい物語だといえるんじゃないかな」

さらには、「子供の前では、親はすべてのことをわかっているフリをするものだよね。自分の欠点や至らないところを隠して。でも、『ダンボ』の物語は、親がすべてを知らなくても平気だと教えてくれる」とも。ダンボとの触れ合いによって、子供たちと同じ目線で物事を学び、解決法を見つけていくホルトの姿に心を動かされたという。2003年に1人め、’09年に2人めの息子が誕生して以来、父親業を満喫しているというファレルらしい言葉だ。かつては私生活の恋愛事情にまで注目が集まったセクシー俳優も、今年で43歳。父親役がしっくりくる年齢になって久しい。

「子役と仕事をするときは、以前よりも彼らの安全を気にするようになったかな? 父親になったことで変わったのはそれくらいだよ。ただ、自分の子供が観られる映画に出演できたのは嬉しいことだね。『ダンボ』が美しいのは、まさにこの点だと思う。重いテーマから目を背けず、子供でも処理できる形で提示されている。大人だけじゃなく、子供にも楽しんでもらえる映画を目指しているんだ。とはいえ、必ずしもうちの子たちが気に入るとは限らないのだけど。父親が出ているからといって、子供たちが無条件で気に入ってくれると思うほど僕は楽観的じゃない(笑)。でも、少なくとも彼らに見せることはできるよね」

今後の待機作は、『それでも夜は明ける』などで知られるスティーヴ・マックイーン監督と組んだ映画『ロスト・マネー』、『さざなみ』のアンドリュー・ヘイが監督を務めるドラマ『ザ・ノース・ウォーター(原題)』(今秋撮影開始予定)など。前者は犯罪者の妻たちが銀行強盗に乗り出すクライムサスペンス、後者はブッカー賞候補小説を映像化するサバイバルスリラー。少なくとも次男が鑑賞するのは先送りにしたほうがよさそうだが、「以前よりも映画やテレビの仕事を楽しんでいる」というファレルの心境は伝わってくる。どれも楽しみに待っていたくなるラインナップだ。

「けれども、以前よりも家を離れているのがつらくなってもいる。人生というのはそういうものだよ。だから、キャリアの満足度は64%だったり、59%だったり、14%や24%になることもある。ただ、役者として生計が立てられていることは、今でも素敵なことだと思っているし、現状にはとてつもなく満足しているよ」



[PROFILE]
1976年、アイルランド生まれ。ダブリンの演劇学校在学中からキャリアを積み、ジョエル・シュマッカー監督の戦争映画『タイガーランド』で注目を集める。以降、『マイノリティ・リポート』『S.W.A.T.』『マイアミ・バイス』など、数々のハリウッド大作に出演。『ヒットマンズ・レクイエム』ではゴールデン・グローブ賞主演男優賞に輝いた。近年の出演作に、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』をはじめ、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』などがある。


  • 『ダンボ』

    サーカスの新しい看板スターとしてショーに出るものの、大きすぎる耳を観客から笑いものにされてしまう子象のダンボ。そんなダンボの世話を任されたのは、戦争帰りの元看板スター、ホルト(ファレル)だった。従軍中に最愛の妻を亡くし、幼い子供2人とともにダンボの世話をするホルトはある日、大きな耳をはためかせながら空を飛ぶダンボの姿を目撃し……。●3月29日より、全国ロードショー

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写真= Art Streiber/AUGUST/amanaimages(表紙)文=渡邉ひかる

2019-03-29