世界中のどこかで、1秒に1本栓が抜かれているシャンパーニュ。それが〈モエ・エ・シャンドン〉である。
ブノワ・ゴエズが〈モエ・エ・シャンドン〉に入社して今年で20年。2005年に35歳の若さで醸造最高責任者に就任して以来、1743年の創業から270年以上も続く老舗の看板を背負ってきた。「勝利においてはシャンパーニュこそふさわしく、敗北のときにもそれは必要だ」との名言を残したのはナポレオン。メゾンとナポレオンの結びつきは深く、皇帝は戦場に〈モエ・エ・シャンドン〉のシャンパーニュを欠かさなかったばかりか、1814年には3代目当主のジャン・レミー・モエにレジオン・ドヌール勲章を授けている。そこでメゾンではナポレオンの生誕から100年を経た1869年、ノンヴィンテージのシャンパーニュに皇帝を意味する"アンペリアル"の名を与えた。これが今日の"モエ アンペリアル"だ。「フルーティな輝き、魅惑的な味わい、エレガントな熟成」と形容されるそのスタイル。ゆえに「モエ アンペリアルほど汎用性の高いシャンパーニュはない」とブノワ・ゴエズは断言する。「どんなシチュエーションでも皆ハッピーになれるシャンパーニュ。時を選ぶ必要も、場所を選ぶ必要もありません。前もって準備することなく、自分の心の赴くままに開ければよいのです」。
"モエ アンペリアル"を楽しむにあたって、留意すべき点を尋ねれば……。「ルールはありません。ただひとつだけ守ってほしいのが温度。理想的な供出 温度は8度です。生ぬるいモエ アンペリアルは言語道断ですが、冷やしすぎてもいけません。熟成によって醸し出される複雑なフレーバーが開きませんから」。このインタビューの間にも、いったい何本、モエ アンペリアルの栓が抜かれていたのだろうか?
写真=合田昌弘 文=柳 忠之
2018-09-14