生まれも育ちもLA。映画監督としても、『ブギーナイツ』『マグノリア』など、LAが舞台の作品で評価を高めていった。そんなポール・トーマス・アンダーソンが、『ファントム・スレッド』でヨーロッパのファッション界を描く。それも、パリやミラノではなく、'50年代のロンドンというやや意外な設定だ。
「当時、素敵なことは全部パリで起こっていたんだ。ロンドンのファッションが多少なりとも語られるようになったのは、'60年代になって、ビートルズやカーナビーストリートが出てきてからだ。戦後の苦しい状態にあった'50年代は、王家のためでもない限り、ドレスを作る余裕なんてなかったのさ。歴史の忘れられている部分というのもまた、僕にとってはとっても面白かったんだよね」
服を作るという地味な作業が果たして絵になるのかという疑問も多少抱いていたアンダーソンは、この映画をゴシックロマンスにすると決める。
「男は全部をコントロールしたがる気難しいヤツで、女は彼に献身的。だが、女がそんな状態に疲れたらどうなるのか?自分も正当に扱われるべきだと思ったとき、彼女は、これまたゴシックロマンスによく出てくる手段を取るんだ」
その男、レイノルズを演じるのは、今作をもって引退を表明しているダニエル・デイ=ルイス。今をときめくクチュールデザイナーであるレイノルズのキャラクターは、アンダーソンとデイ=ルイスが、イチから一緒に作り上げていった。
「レイノルズが着る服に関しては、彼と衣装デザイナーが2人で決めた。僕はほかのことで忙しいし、ときどき覗いては『いいんじゃない?』と言う程度だったよ。今作にはダニエルのセンスが相当に発揮されている。彼とレイノルズのスタイルは結構共通するよ。ひとことで形容するなら“エレガント”だね」
文=猿渡由紀
2018-05-31