たくましい肉体で敵の攻撃に立ち向かうことができるか。深い愛情を持って人類を守ることができるか。正義を胸に使命を全うできるか。ヒーローの条件はいくつもある。しかし、スーパーヒーローが活躍する映画が何本も製作される昨今のハリウッドでは、ヒーローの条件もずいぶんと多様化してきた。あるヒーローはチャラいプレイボーイで、あるヒーローは未熟なティーンエイジャー。悪びれることなく私利私欲に走りがちなヒーローすら存在し、それが個性として愛されてもいる。そんな中、クリス・エヴァンスは2011年に公開された『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』以来、今やクラシカルともいえる正統派ヒーローの条件を順守してきた。
もっとも、彼が7年にわたって演じてきたヒーロー、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースは、第二次世界大戦中に冷凍状態となり、長年の眠りを経て現代に蘇った戦士。キャプテン・アメリカにとっての正義がクラシカルに思えるのは、ごく当然のことかもしれない。しかも、演じるエヴァンスの容姿を見れば、その"正統派ヒーロー感"にもより納得がいくというもの。たくましい肉体で敵の攻撃に立ち向かってくれそう。深い愛情を持って人類を守ってくれそう。正義を胸に使命を全うしてくれそう。日々のワークアウトで鍛え上げた肉体と優しさを感じさせる顔立ちが、こう思わせてくれる。しかし、キャプテン・アメリカ役に抜擢された7年前は、その後長く愛されることになる男を演じる事実に躊躇していたそうだ。
「僕はすごくナーバスになっていたんだ。でも、ある人の優しさや温かさが僕を支えてくれた。いろいろな意味で助けられたよ。彼は僕に自信や方法論を授けてくれたんだ。彼がいなかったら、僕は自分を見失っていただろうね」
その彼とは、先輩俳優のロバート・ダウニーJr.だ。キャプテン・アメリカとダウニーJr.演じるアイアンマンは地球の平和を守るヒーロー集団アベンジャーズのチームメンバー同士であり、エヴァンスとダウニーJr.は『アベンジャーズ』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』など、数々の作品で共演してきた。彼らが登場する一連のシリーズは、原作となったコミックの出版社名から"マーベル・シネマティック・ユニバース"と命名されている。
「僕らのユニバースは、いまや大きなプロジェクトへと成長した。けれども不思議なことに、それを他人事のように感じていたのはむしろここまで大きなものになる前、シリーズに参加しはじめた頃なんだ。部外者のような気持ちで、外から眺めている感覚だったよ。でも、今では自分がしっかりとそこにいる。素晴らしいユニバースの一員であるというクールな幸運を現実として認識し、浮き足立つことなく、しっかり受け止められるようになってきたんだ」
それはクリス・エヴァンスという俳優が、一連のシリーズを通して成長してきた証だろう。俳優としてのスター性、そして深みが増したのは、映画を観ればすぐにわかる。また、エヴァンスはスクリーンの外でもヒーローの役目を全うしようとし続けてきた。もともと慈善活動に熱心な彼は、病気と闘う子供たちをキャプテン・アメリカとしてたびたび訪問。3年前には、マーベル・シネマティック・ユニバースの仲間である俳優クリス・プラットとの"公開対決"も話題となった。対決の内容は、「自分の応援するチームがスーパーボウルで負けたほうが、役の衣装を着て入院中の子供たちを元気づけに行く」というもの。エヴァンスはこの対決で見事勝利を収めたが、結局はプラットの付き添いで仲よく病院を訪問。さらに後日、今度は自分がキャプテン・アメリカの衣装を着用。プラットを付き添いに従えて病院を訪れたのも彼らしい。ロバート・ダウニーJr.にせよ、クリス・プラットにせよ、ヒーローを演じる俳優同士の友情が育まれていることにも胸が熱くなる。
「かれこれ10年近く旅を共にしてきた仲間でもあるからね。僕らにはいい思い出がたくさんあるし、気も合うし、腐った林檎はひとつもない。これ以上のグループは考えられないよ。そんな彼らと僕は新しいジェットコースターに乗るんだ」
エヴァンスの言う"ジェットコースター"とは、4月27日に公開される『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のことだ。なにせビッグプロジェクトに成長したシリーズの最新作ゆえ、内容はトップシークレット。この作品のことになると彼の口も重くなるが、ヒーローたちが一堂に会する物語になるらしい。
「『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で僕たちの友情は頂点を迎え、今はみんなバラバラ。でも、今回の物語では僕らチームが一緒にいなきゃならない理由ができ、仲間意識が最高潮に達するんだ」
なんとも気になる展開であるうえ、実はさらなる続編も来年公開予定。キャプテン・アメリカたちの死闘はまだまだ続く。ただし、ここに来てエヴァンス自身から気になる発言が。すでにほぼ撮影済みの続編を最後に、キャプテン・アメリカ役を卒業すると匂わせはじめた。たしかに、キャプテン・アメリカ以外のエヴァンスをもっと見てみたい気はする。実際、今はブロードウェイの舞台「ロビー・ヒーロー(原題)」に出演中で、映画とは違う芝居の世界を楽しんでいる様子。日本では昨年11月に公開された感動作『gifted/ギフテッド』での"キャプテン・アメリカではないクリス・エヴァンス"も、あっぱれなほど大好評だった。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』撮影時には「すべての撮影が終わったときに欲しいのはキャプテン・アメリカのスーツ。でも、自宅で着るのもヘンだからマネキンに着せて飾っておく」とも語っているエヴァンスだが、撮影の疲れからの発言だと思いたい。自宅に持ち帰ったところで、スーツを引っ張り出して撮影現場に向かう日は再び来るはずだ。クリス・エヴァンスは根っからのヒーローなのだから。
[PROFILE]
1981年、米・マサチューセッツ州生まれ。ニューヨークのリー・ストラスバーグ演劇研究所で学び、TVドラマ「逃亡者」で映像デビュー。サスペンス映画『セルラー』で注目を集めた後、『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』のヒューマン・トーチ役で人気を博す。続編となる『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』でも同役を好演。2011年からは『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』を皮切りに、シリーズ計9作でキャプテン・アメリカ役を演じている。
米マーベルコミックのヒーローたちが活躍する"マーベル・ シネマティック・ユニバース"のシリーズ最新作。無限の力 を持つインフィニティ・ストーンを手に入れ、全宇宙の滅亡 を目論む悪の覇者サノス。そんな彼にキャプテン・アメリカ (エヴァンス)ら、ヒーロー集団アベンジャーズの面々が戦 いを挑む。●4月27日より、全国ロードショー
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写真=Brian Bowen Smith 文=渡邉ひかる
2018-04-27