LAのトランスジェンダー売春婦の生活を描いた前作の映画『タンジェリン』には、素人のトランスジェンダーの女性を起用し、究極のリアリティを追求した。その実験的なキャスティングで大成功を収めた映画監督ショーン・ベイカーは、最新作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』でも、思わぬところで出演者を拾っている。若いシングルマザー、ヘイリーを演じるブリア・ヴィネイトを見つけたのは、なんとインスタグラムだ。
「ブリアがマリファナを吸いながらダンスしている映像があったんだ。その明るさ、誰になにを言われようが気にしないという態度を見て、これぞヘイリーだと思ったんだよ。ハリウッドスターに、ここまでヘイリーをとらえられる人はいない。娘役はプロの子役だが、その友達を演じるのは地元のディスカウント店で見つけた子だ」
今作も日の当たらないところにいる人々の物語。"ディズニーワールド"という夢の国のすぐそばにある安モーテルには、ホームレスぎりぎりの人たちが住んでいる。だが、『タンジェリン』がそうであったように、今作もユーモアにあふれている。
『タンジェリン』のリサーチでトランスの売春婦に話を聞いたとき、彼女らの話し方が面白くて、僕はすごく笑わせられたものだ。人は、つらい状況を乗り切るために笑いの力を借りる。彼女らの場合は、それがもっと必要なんだ。この映画に出てくる人たちも同じ。笑いの要素がなかったら、それは彼らを正直に描いていないと思う」
明るい中にも政治的なメッセージがあるのが、彼ならではのスタイル。
「メッセージをガツンとぶつけることは、やらない。だが、それについてもっと知りたいと感じさせることはしたい。ここでこんなことが起きているなら、自分の街でも起こり得る。そう感じてもらうことが、僕の狙いさ」
文=猿渡由紀 photo by AFLO
2018-04-27