沖縄は世界屈指の長寿の島々であり、それが地元の伝統的な料理に支えられていることは、国内外で知られるところである。しかし最近、ローカル料理店だけではなく、世界に比肩しうる、高レベルのレストランが少なからず誕生し、沖縄に美食革命を起こしつつある。
沖縄には古くから"ぬちぐすい"という言葉がある。直訳すると命の薬という意味で、いわゆる"医食同源"に通じる考え方が古くから根づいている。ローカル料理の数々はまさにその象徴で、沖縄に旅する楽しみのひとつなのだが、沖縄の食の魅力はそれだけではない。この近年、世界の美食家たちを唸らせるようなレストランが誕生しはじめ、富裕層たちを呼びこむ、新たな観光資源になりつつあるのだ。
その筆頭は、昨年の夏に沖縄県恩納村にオープンした高級ホテル、〈ハレクラニ沖縄〉内の〈Shiroux(シルー)〉だろう。ここは、東京・外苑前〈フロリレージュ〉の川手寛康シェフが監修するイノベーティブ・レストランだ。沖縄の食材や食文化を基軸にした、川手シェフの独自のクリエーションはどれもユニークで、沖縄の美食のポテンシャルすら感じずにはいられない。海の中に誘われたような素敵な空間と優雅なサービスで味わう美食体験は、沖縄の印象すら変わることだろう。
まもなく開業3年めを迎える〈ザ・ひらまつ ホテルズ&リゾーツ 宜野座〉のレストランも特筆に値するだろう。先だって、久しぶりに訪れたが、木下善信シェフの料理には磨きがかかり、沖縄でしか味わうことのできない、独自のフランス料理を確立しつつあり、大いに驚かされた。木下シェフによると、地元沖縄の生産者や漁師たちを巡り、独自のルートで食材を仕入れて、オリジナル料理を作りあげているのだとか。レストランだけの利用も可能なので、是非訪れてほしいと思う。
最後に、ニューオープンではないが、伝統的な琉球料理の〈美榮〉をご紹介して締めくくろう。この店は1958年創業で、琉球王国の朝廷料理の伝統を今に受け継ぐ名店として知られている。手間と時間を惜しまず作り上げる吸い物の"なかみ"や、美しい東通盆の"七品盛り"など、洗練の極致とも思える味わいやプレゼンテーションは、舌の肥えた世界の美食家たちをも驚かせるに違いない。
ハワイを象徴するホテル、ハレクラニの初の海外拠点として、昨年の7月にオープンした、〈ハレクラニ沖縄〉。そこにある〈シルー〉のコンサルティングシェフ川手寛康は、“アジアベストレストラン50”で5位、ミシュランで2つ星の実力者。沖縄の食文化を再構築し、どこにもないユニークな料理に挑んでいる。
ADDRESS | 沖縄県国頭郡恩納村名嘉真1967-1 |
OPEN | 7:00~10:30(L.O)、17:00~21:00(L.O)、無休 |
PHONE | 098-953-8600(ホテル代表) |
WEBSITE | https://www.okinawa.halekulani.com/ |
自然豊かな沖縄本島の東海岸に面したスモールラグジュリーホテルレストランではひらまつらしく、フランス料理の基礎をみっちり修業した木下善信シェフが、沖縄の食材を独自のアイデアで紐解き、独自の沖縄フレンチを創作する。
ADDRESS | 沖縄県国頭郡宜野座村字松田1425 |
OPEN | 17:30~20:00(L.O)(※宿泊者以外のレストラン利用はディナーのみ)、不定休 |
PHONE | 098-968-5600 |
WEBSITE | https://www.hiramatsuhotels.com/ginoza/ |
地元の名士たちに愛された老舗の名店。趣ある店構えもさることながら、琉球の伝統漆器や焼き物を使った調度品も素晴らしい。琉球王朝が諸外国との外交でふるまった伝統的な料理の数々を今に伝える数少ないお店である。その伝統文化を知るうえでも是非訪れてほしい。
ADDRESS | 沖縄県那覇市久茂地1-8-8 |
OPEN | 11:30~15:00、18:00~22:00、日曜休 |
PHONE | 098-867-1356 |
WEBSITE | http://ryukyu-mie.com/ |
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より“世界ベストレストラン50”の日本評議委員長も務める。さらに、グラナパダーノとパルマハムの親善大使に任命されている。
2020-03-13