昨年、"世界ベストレストラン50"のアワードが開催されたこともあり、スペイン・バスク地方のビルバオ周辺が、美食のエリアとして熱い視線が注がれている。筆者が実際訪れたオススメの3店舗をご紹介しながら、ビルバオのレストランの魅力を探る。
今「美味しい街はどこか」と問われたら、間違いなく筆頭の1つに挙げるのが、スペインはバスク地方のビルバオだろう。バスクといえば、日本ではサンセバスチャンがよく知られているが、ビルバオも負けずとも劣らぬほど、美食の魅力にあふれているのだ。昨年の6月に、筆者が日本評議委員長を務める"世界ベストレストラン50"(以下ワールド50)の2018年のアワードが、ビルバオで初開催されたこともあり、この街の美食事情が徐々に知られるようになったが、まだまだ穴場的な存在といっていいだろう。
そもそもビルバオという街は、周辺で鉄鉱石が採掘されたこともあり、1960年代から’70年代にかけて重工業で目覚ましい発展を遂げたバスク地方の中心都市であった。しかし’70年代から’80年代にかけて工業都市としての産業基盤が衰退し、街の活気は失われつつあった。そんな状況に一石を投じるべく、ビルバオでは’90年代以降に文化芸術の振興による都市再生プロジェクトが敢行された。食文化もその計画に含まれ、レストランを支援するいろいろな取り組みが自治体を中心に推進されてきた。件のワールド50のアワード誘致もその一貫で、いまやビルバオは"美食の都"として世界中から注目されはじめている。
ファインダイニングから伝統的な家庭料理のお店、あるいはタパスを出すバルまで幅広いバリエーションを誇るのがビルバオの美食の特徴。その中で、今回はワールド50で10位にランクインした〈アサドール・エチェバリ〉と、同じく43位の〈アスルメンディ〉と、ちょっと毛色は違うが街中の超人気バル〈ラ・ビーニャ・デル・エンサンチェ〉の3店舗をご紹介しておこうと思う。それぞれ、料理に対するアプローチやお店のキャラクターが全く異なるが、いずれもバスク地方の豊かな自然環境を背景にした海の幸や山の幸、あるいは伝統的な生ハムなど、ここでしか味わえない美食を体験することができるはずだ。欧州へ渡航の予定があるのなら、是非ともビルバオまで足を延ばして、美食の寄り道をしてほしいと思う。
ビルバオ郊外の山の中にある一軒家レストラン。シェフのビクトル・アルギンソニスは、分子料理といった技法や最新の調理器具をほとんど使わず、薪の熾火という原始的な調理法だけで料理する。昨今のガストロノミーとは対極のレストランともいえるが、その美味しさはスポイルされかけた私たちの味覚や五感に衝撃を与えるはずだ。
ADDRESS | San Juan Plaza, 1,48291 Atxondo, Bizkaia, Spain |
PHONE | +34-946-58-30-42 |
ビルバオ最古のバルの1つで、重厚な雰囲気もいい。日中から閉店まで、客が絶えない人気店で、タパスを中心にした豊富な品揃えもさることながら、どれも舌を巻くほど美味い。ワインやビールも、1杯2ユーロ以下からと手頃。1杯とタパス1品だけでも気軽に楽しめる。
ADDRESS | Diputazio Kalea, 10,48008 Bilbao, Bizkaia, Spain |
PHONE | +34-944-15-56-15 |
ガラス張りの店内からは、自家製菜園やワイナリーが一望でき、お洒落にピクニック気分が楽しめる。シェフのエネコ・アチャ・アスルメンディの料理は、アイデアと美意識にあふれ楽しい。そのスペシャリテの一部は、東京の姉妹店〈エネコ東京〉でも味わえる。
ADDRESS | Legina Auzoa, s/n,48195 Larrabetzu, Bizkaia, Spain |
PHONE | +34-944-55-83-59 |
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より"世界ベストレストラン50"の日本評議委員長も務める。さらに、グラナパダーノとパルマハムの親善大使に任命されている。
2019-04-25