今モスクワでは、近年の好景気に刺激され、美食レストランが続々と誕生している。その筆頭が、世界ベストレストラン50で15 位の〈ホワイト ラビット〉。今回は、シェフのウラジミールさんと一緒に市場や、彼の最新レストランを巡った。
ロシアといえば、ボルシチやピロシキなどの伝統料理を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、近年はモスクワを中心に、続々と美食レストランが誕生して話題だ。その火つけ役が、モスクワの〈ホワイト ラビット(WhiteRabbit)〉だろう。この店は現在、私が日本評議委員長を務める"世界ベストレストラン50"で、15位にランクインしている。シェフのウラジミール・ムーヒン(V l a d i m i rMukhin)は、ロシアのロコの食材や伝統的な食文化をベースに、革新的なアプローチで新しい料理を次々と生み出し、世界の美食家たちを驚かせている。
今回は〈ホワイト ラビット〉のほかに、昨年彼がオープンさせた〈サハリン(Sakhalin)〉という新しいレストランも訪れた。写真をご覧になってもわかると思うが、彼の料理の多くは、新鮮な魚介類で構成されている。それらは、ロシア全土に広がる海域や湖から取り寄せたものだ。なかでもレッドキャビアと呼ばれるイクラは、シグネチャー・ディッシュにもなっている。そもそも、イクラは大正時代以降に日本に伝わったもので、イクラはロシア語なのだ。今回は、シェフのウラジミールと、彼が仕入れるモスクワ市内の市場、ダニーロフスキー市場にも訪れたが、イクラだけでも魚種別、味付け別で相当の種類があり、その美味しさには驚かされた。そのほか、魚の燻製や乾物、あるいは発酵食品など魅力的な食材にあふれていて、眺めるだけでも楽しい。モスクワに行くなら是非とも訪れてほしいと思う。
そして、注目はなんといっても最新レストラン〈サハリン〉だろう。サハリンは樺太のこと。店内は極東ロシアをイメージしたクールなデザインで統一され、多くの食材が極東から空輸されている。店内の水槽には、生きたカニやエビ、貝類やウニや牡蠣がディスプレイされ、なんとモダンにアレンジされた日本料理として提供されるのだ。日本とロシアにとって、極東は政治的にはナーバスなエリアだが、こと美食では友好的に共感し合えるのでは、と前向きな解釈とともにおすすめしておこう。
〈ホワイト ラビット〉のシェフのウラジミールは、ロシア南部の出身。ロシアの伝統的な食材や食文化を研究し、それを現代的にアレンジして提供する。コースのほかに、アラカルトでも注文できるのも嬉しい。ビジネスパーソンから家族連れ、カップルなど幅広い客層が訪れ、全体的にアットホームな雰囲気なのもいい。
ADDRESS | Smolenskaya Square, 3, Moskva |
PHONE | +7-495-782-62-62 |
極東の樺太をイメージした店内は、超モダンなインテリアの魚介専門店。日本料理をテーマにしたというだけあり、刺身や寿司も提供する。ワインやウオッカはもちろんだが、地ビールや日本酒など、ドリンクのペアリングも楽しい。ドレスアップして出かけたいレストラン。
ADDRESS | AZIMUT Hotel Smolenskaya Moscow,Smolenskaya Ulitsa, 8, Moskva |
PHONE | +7-495-647-647-9 |
この市場の開業は1963年。モスクワっ子の胃袋を支え続けているが、近年リニューアルされ、清潔で歩きやすく、見ているだけでも楽しい。魚介をはじめ、野菜や肉、フルーツのほか、飲食店もあり、旅行者の買い物や食事、お土産探しにも便利。
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より"世界ベストレストラン50"の日本評議委員長も務める。さらに、グラナパダーノとパルマハムの親善大使に任命されている。
2019-03-29