〈マンダリン オリエンタル パリ〉の総料理長であり、ホテル内に自身の2ツ星レストランを構えるティエリー・マルクス。オルセー大学に設立したラボでは、未来の料理を研究中。彼の考える料理哲学は斬新で面白い!
一流のシェフは、料理だけでなく、お客様に対しても深い見識を持っているもの。世界の食通に愛される〈マンダリン オリエンタル パリ〉総料理長、ティエリー・マルクスもその1人。なかでも、彼 が教えてくれた料理に対する男女の嗜好の違いが実に面白い。「食事において女性が満足を感じるタイミングは3つ。それは"目で愛で、素材を味わい、そしてもう少し食べたいと思うとき"。あともうひと口食べたいというフラストレーションが『美味しいものを食べた』という満足感を誘うのです。男性は量に満足しますが、女性はそうではないのです。だから、女性を食事に誘うときは、この男女の違いを知っておくといいですね」。思わずハッとさせられる料理人ならではの洞察力だ。もちろん、彼のその能力は"食"への斬新な取り組みにも生かされている。
「料理は食べればなくなる儚い芸術。残るのは思い出だけです。だから、私は"感動"という思い出を持ち帰っていただきたい。しかし、感動は革新の先にしか存在しないのです。そして革新には、リスクが伴います。新しいものを作り出すには、リスクを承知で実験を繰り返すしか方法はないのです」
その言葉どおり、マルクス氏は厨房とは異なる実験施設"フレンチ・フード・イノべーションセンター"を2012年に設立。なんと、分子調理学の科学者とともに新しいフレーバーや食感、革新的な調理法などの実験に取り組んでいる。「 研究は長期的な視点を持つことが大事。たとえば2050年に照準を設定したら、そこから現在を振り返る。すると、今なにをするべきなのかが見えてくるのです。未来には、建物はその建物内で食物を生産し、発電もするということが私の理想です。だから私は今、自給自足ができる"自立型の建物"を研究しています」。ホテルの屋上ガーデンは、そんな研究の第一歩。今後も彼の料理哲学から目が離せない。
2050年の地球は人口が97億人に増え、水不足になると予測される。そのため、水を大量に消費する家畜の飼育を控える必要があるとマルクスは言う。未来のコース料理は、2割が動物性タンパク質で8割が野菜になる。さらに彼は未来の水対策をもう1つ考えているようだ。それが、野菜の水分の活用。たとえば95%が水分のトマトは、フランスでは旬の時期に月間30t廃棄されているのが現実。そのトマトから水分を抽出すれば、飲み物や農業用水として使える。料理人は、水分を抽出した後の果肉や皮、種を使うレシピを開発することで、水不足解消に貢献できるのだ。
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文=小松めぐみ
2018-11-30