原産地名称保護(PDO)とは、特定の農産物と原産地との関係について定められた、欧州最高の認定制度である。北イタリア特産のパルマハムとグラナパダーノはその象徴だ。もし、出張などでイタリアに行ったならば、足を延ばしてこれらを堪能できるローカルガストロノミーを訪れてみては?
先頃、グラナパダーノとパルマハムが作られている現場を取材するために、北イタリアを訪れた。多くの工房を巡りながら改めて感心したのは、どちらも800年以上ほとんど変わらぬ製法で作られていることだった。両者はともに保護協会があり、素材や製法に至るまで厳密な決まりごとを定めていた。大事なことは100%ナチュラルな素材を使い、時間をかけて熟成をすること。たとえば、グラナパダーノの熟成期間は、9カ月から24カ月と決められているが、出荷するには外観や香り、あるいは食感について厳密な検査がされて、ようやく焼き印が押される。パルマハムも同様で、原料は豚の後ろ足と天然塩だけ。昔ながらの熟成方法で、あの甘美な生ハムを生み出している。グラナパダーノもパルマハムも、あの独特の風味を出すためには、熟成の期間と手間だけは端折れないと、多くの生産者たちは口を揃える。時代が効率を求めようが、AIが進化しようが、今後もそのスタンスは変わりそうにない。結局のところ、本物の美味しさを作るには、ある種の適正な時間の感覚というのが必要なのだろう。
それは、食べるというダイニングのシーンでも同じで、イタリア人たちは忙しい現在にあっても、食するという時間を大切にしている。グラナパダーノとパルマハムは、レストランだけでなく家庭でも日常的に食される。彼らは熟成期間を紐解くように、"とき"をも味わうのである。もちろん、日本も世界に冠たる発酵文化や熟成食品を誇るが、今保護しないと多くの伝統食が消滅していく危機にあると、専門家やシェフたちが指摘する。彼らのPDOのように、共同体で認証システムを作り、本物の食を保護する必要があるだろう。折しも、EUと日本はEPA(経済連携協定)を結んだばかり。グラナパダーノとパルマハムの関税も、将来的に撤廃される予定だから、より身近に楽しめそうだが、美味しさと時間の関係についても見直す機会になってほしい。
[オステリア デル 36]
パルマの街の中心部に位置する小さなレストラン。ミシュランのビブグルマンに選ばれるが、伝統的な料理だけでなく、モダンな調理法にも挑戦している。たとえば写真の料理は、スライスしたパルマハムを液体窒素で瞬間冷凍し、それを粉末に砕いて生のイチジクと合わせるユニークなひと皿。チップス状に調理したグラナパダーノがアクセント
ADDRESS | Via A Saffi 26/A Parma 43121 |
PHONE | +39 0521 287061 |
[ラ プロシュッテリア]
通りに面した細長い店内には、天井からずらりとパルマハムの塊が吊りさがる。客は、好きなブロックを、その日に食べる分だけカットしてもらえる。ハムのほかにも、様々な総菜やオリーブオイル、ワインなども揃える。店の隣にはイートインできる、デグステリアも併設する
ADDRESS | Via Paradigna 169 - 43122 Parma |
PHONE | +39 0521 774302 |
[リストランテ アル ムリーノ]
パルマ郊外にある、トレッキアーラ城の麓にある家族経営のレストラン。パルマの伝統的な家庭料理と、地元のワインが気軽に楽しめる。もちろん、自慢はパルマハム。やはり、地元で食べる味わいは格別。独特の薄いパンとともに、前菜として食べるのがパルマの伝統的な食べ方なのでお試しを
ADDRESS | Strada del Mulino 12/B, 43013 Torrechiara,Langhirano, Italia |
PHONE | +39 0521 355122 |
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より"世界ベストレストラン50"の日本評議委員長も務める。さらに、グラナパダーノとパルマハムの親善大使に任命されている。
2018-10-31