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CULTURE カルチャー

2020.02.07

【2月10日決戦】どの作品がオスカーを獲る!?
第92回アカデミー賞を予想!

第92回アカデミー賞が日本時間の2月10日(月)に発表される。その中でも、9作品がノミネートされている“作品賞”に焦点を当ててみたい。というのも、今回は近年では珍しい激戦ぶり。ゴールデングローブ賞でドラマ作品賞を獲得した『1917 命をかけた伝令』に、コメディ作品賞を受賞した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が顔を揃えている。それだけでなく、昨年『ROMA /ローマ』で話題を振りまいたネットフリックスからは、今回2作品も選ばれているし、アジア映画初のノミネートとなった『パラサイト 半地下の家族』の奮闘も期待したい。いやはや、一体どんな結末になるのか!? そんな未来予想図を映画コメンテーターの有村 昆さんに語ってもらった!

ノミネート作①
『フォードvsフェラーリ』

監督/ジェームズ・マンゴールド 出演/マット・デイモン、クリスチャン・ベール
配給/ディズニー



2人の油くさい姿は、クルマ好きには堪りません


今年のアカデミー賞は見どころが多くて、とても楽しみですね〜。作品賞には9本がノミネートされていて、内容も非常にバラエティに富んでいます。それだけに予想も難しいんです(笑)。

そんなノミネート作の中で“派手枠”と呼べるのが、『フォードvsフェラーリ』です。マット・デイモンとクリスチャン・ベールがカーエンジニアとレーサーに扮した実録レースもの。2人の油くさい姿は、クルマ好きには堪りませんね(笑)。

タイトルは『フォードvsフェラーリ』ですけど、実はフォード社内部の上層部と開発現場との闘いの物語なんですよ。だから、会社勤めしている人にとっては、自身と重なるところがあって、共感した人も多いのではないでしょうか?

レースシーンも臨場感があって、迫力もあります。ただ、作品賞を獲るかといえば、そこまでの仕上がりではなかったように思います。作品賞を派手に盛り上げる役回り、でしょうかね!?
 


ノミネート作②
『アイリッシュマン』
監督/マーティン・スコセッシ 出演/ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ
配信/ネットフリックス



出演陣だけで痺れます!


マーティン・スコセッシ監督のもと、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ぺシが共演。映画界の“ラストボス”4人が揃った、超〜豪華な裏社会ものです。いや〜、出演陣だけで痺れますよね(笑)。

この4人はみんな、もういい年齢ですよ(今年でデ・ニーロは77歳、パチーノは80歳!)。となると、これが最後の大締めになるんじゃないでしょうか〜!? 話題のネットフリックス作品で、3時間29分の大作です。でも、男っぽい世界観に引き込まれて、自分にとっては長尺もアッという間に感じられました。

デ・ニーロとアル・パチーノはプロレスでたとえると、アントニオ猪木とジャイアント馬場のような存在です。映画界の両雄。交わらないのが普通だった存在ですよ。かつて、『ヒート』('95年)では1シーンだけ共演していましたが、それだけで異様な緊張感があったのを思い出します。

そんな2人も今では、すっかりオジイちゃんになって、今回は1シーンと言わずガッツリ共演。昔を知っているファンにとっては、驚きですよね。もちろん嬉しいことです。

大御所の共演以外にも、注目してほしいのが、ネットフリックス作品であるということ。昨年も『ROMA/ローマ』が作品賞にノミネートされていました。けれども、配信作品ということもあり(劇場公開もされましたが)、劇場興業主たちが強く反発。外国語映画賞、監督賞、撮影賞の受賞に止まりました。

でも、もはやネット配信だからというだけで無視はできない存在になりましたよね。現に、上質な作品を作り続けているわけですから。
ネットフリックス初の作品賞受賞なるか、という意味でも、注目しています。
 

 
ノミネート作③
『ジョジョ・ラビット 』
監督・出演/タイカ・ワイティティ 出演/ローマン・グリフィス・デイビス、スカーレット・ヨハンソン
配給/ディズニー



視点が斬新に感じました!


これからが期待される“ニューカマー枠”として選ばれたであろう作品が、タイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』。これまでの第二次世界大戦ものは、迫害されるユダヤ人か連合軍側からの視点で描いた作品がほとんどでした。けれども、この作品はアドルフ・ヒトラーが大好きな“ドイツの少年”が主人公。その視点が斬新に感じましたね。

ナチスのヒトラーユーゲントに所属する少年が、自宅の隠し部屋にユダヤ人の少女が匿われていることを知るんです。少年は敵を見つけて大パニック、さあどうする!? という展開。
前半は大いに笑わせながら、後半は思わず泣かせる。この感動の展開は、ロベルト・ベニーニ監督の名作『ライフ・イズ・ビューティフル』(‘97年)に似ているかもしれません。

少年の母親役を演じたスカーレット・ヨハンソンも助演女優賞にノミネートされています。彼女が、またいいんですよ〜。『マリッジ・ストーリー』でも母親役を演じ、主演女優賞候補になっていますが、素晴らしい女優さんですよね。

少年の妄想として現れるヒトラー役をタイカ監督自身が演じるなど、有名キャストがほとんど出ていないのも特徴。小粒ながら印象に残る作品です。ただし、タイカ監督は初ノミネート。「受賞は、まだ早い」とアカデミー会員は思っているのでは? とにらんでいます。
 


ノミネート作④
『ジョーカー』
監督/トッド・フィリップス 出演/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ
配給/ワーナー・ブラザース映画



ある意味、とても危険な内容!


さあ、今年の最大の話題作ですよ! これは、アメコミの冠を借りた社会派作品です。最近は、是枝裕和監督の『万引き家族』(2018年)や、ノミネートされているポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』など見えない社会のカースト制度、貧困問題をテーマにしている作品が多いですが、これも同じ。アメコミ世界と上手に融合させていて、エンターテイメントに仕上げています。

母親思いで、病院の子供たちをピエロ姿で楽しませる善良な主人公。けれども仕事を失い、福祉支援も打ち切られてしまう。そこで行き場を失い、怒りを爆発させる物語です。

ある意味、とても危険な内容です。世の中には犯罪事件がいっぱいあって、その犯罪は絶対に許されるものではない。しかし、犯行に及ぶ前に社会に対して“SOS”を発していたのではないか? それを社会は見逃していたのではないか? そんなことも考えさせられましたね。

『キング・オブ・コメディ』(‘82年)でテレビ司会者を誘拐した役を演じたロバート・デ・ニーロが、本作では逆の立場として出演しているのも見どころです。

ちなみに主演男優賞はジョーカーを演じたホアキン・フェニックスで間違いないと思っています!
 

 
ノミネート作⑤
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(3月27日公開)
監督/グレタ・ガーウィグ 出演/シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン 配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント



フローレンス・ピューが注目です!


南北戦争時代の4人姉妹を描いた名作『若草物語』。それを、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督が現代的な脚色を加えて映画化したものです。

正直なところ、こちらの作品賞はないとは思います。けれども、キャストのアンサンブルはすごくいい! 特に、4姉妹の末っ子を演じたフローレンス・ピューは注目ですよ。助演女優賞にもノミネートされていますが、今年ブレイクすることが間違いない若手女優です。5月に公開する『ブラック・ウィドウ』にも出演と、人気と知名度が飛躍的に高まると踏んでいます。

それと母親役のローラ・ダーンがいいですね〜。『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』(2017年)にも出ていましたし、『マリッジ・ストーリー』でもやり手の弁護士を好演していました。熟女系女優として再ブレイク中じゃないですか?(笑)
 

 
ノミネート作⑥
『マリッジ・ストーリー』
監督/ノア・バームバック 出演/スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー 配信/ネットフリックス



大人がじっくり鑑賞できるホームコメディ


離婚をテーマにした『クレイマー、クレイマー』(‘79年)の現代版と言っていいでしょう。『アベンジャーズ』シリーズのスカーレット・ヨハンソンと、『スター・ウォーズ』のアダム・ドライバーが共演。映画ファンにとっては、「ブラックウィドウとカイロ・レンが夫婦か〜」、と驚いてしまいますよね(笑)。

こちらもネットフリックス配信作で、大人がじっくり鑑賞できるホームコメディ。夫婦がお互いのいいところを読み上げていくところから幕を開けるため、心温まる話かと思えば途中から急転直下。離婚調停に突入し、裁判などを通して苦悩する夫婦のやりとりがリアルに描かれています

こちらも、作品賞を獲るほどのパワーはないような気がします。
 

 
ノミネート作品⑦
『1917 命をかけた伝令』(2月14日公開)
監督/サム・メンデス 出演/ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン 配給/東宝東和



まるで自分も戦場にいるような気分に!


第一次世界大戦もので、全編ワンカットで撮影された作品です。いや〜、度肝を抜かれました! これまでも長回しを生かした作品はありましたよ。たとえば『ゼロ・グラビティ』(2013年)や『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)とか。この作品は、それらの作品の完成形だと思いましたね。

大勢のエキストラがいる塹壕を走り抜けるシーン、戦闘機が墜落するシーン、爆破シーンなどがワンカットで撮られているんです。観ていると、まるで自分も戦場にいるような気分になるんですよ。これは迫力ありますよ! 4DXで観たら、どうなっちゃうんでしょうか!?

ちなみにピーター・ジャクソン監督のドキュメンタリー映画『彼らは生きていた』(公開中)もやはり第一次世界大戦を題材にしています。これは100年前の記録映像を修復・着色して、蘇らせた意欲的な作品です。

『彼らは生きていた』を観てから、『1917〜』を観ると面白さが倍増するのでオススメですよ。サム・メンデス監督もピーター・ジャクソン監督も、祖父が第一次世界大戦の従軍者らしいですね。

ゴールデングローブ賞を獲得したのも頷ける作品です。
 

 
ノミネート作品⑧
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
監督/クエンティン・タランティーノ 出演/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット 配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント



いかにもタランティーノらしい作品!


『アイリッシュマン』が“ラスボス”4人のタッグ作なら、『ワンス〜』は“いま旬”3人が手を組んだ作品。レオナルド・ディカプリオが主演男優賞、ブラッド・ピットが助演男優賞、タランティーノが監督賞と、それぞれノミネートされているのもわかってるなあ〜と思いますね。ただし、ディカプリオの受賞はないと思いますが(笑)。

'60年代のハリウッドを舞台に、前半はディカプリオとブラピがわちゃわちゃしているだけの作品なんです。けれども、いかにもタランティーノらしくて、観る者を楽しませてくれるんですよ。ブラピがブルース・リーと闘っちゃうし。

後半、カルト集団がアジトにしている農場をブラピが訪ねたあたりから雰囲気がダークモードに変わり、予想外な結末が待っています。ここらへんの手腕が、「さすがタランティーノ、見事だなあ〜」と思います。

 
ノミネート作品
『パラサイト 半地下の家族』
監督/ポン・ジュノ 出演/ソン・ガンホ、イ・ソンギュン 配給/ビターズ・エンド



監督賞も狙えるかも!?


台風の目と思っているのが、『パラサイト〜』です。国際映画賞は確実視されていますが、アジア映画として初めて監督賞と作品賞にもノミネートされたことには驚きましたね。これまでのアカデミー賞は米国映画人の祭典として英語圏の映画を対象にして選考されてきたわけですが、世界中の映画に門戸を開いた点は素晴らしいと思います。

前半はコメディタッチなのが、後半からは予想外の展開が待っています。ピエロのいないコメディ、悪者のいないサスペンスですね。ポン・ジュノ監督の演出力は高く評価されていて、監督賞も狙えると予想しています。

ネタバレができないので、内容を詳しく解説できないのが残念ですが、こちらも作品賞を狙えると思っています。
 

 

有村昆さんが推す作品賞の本命は?


ノミネート作品は、これら9作品です。そして、どれが作品賞を獲得するのか!? 

ズバリ、『1917 命をかけた伝令』が大本命!

『1917〜』は、サム・メンデス監督だけでなく、失敗したら最初からすべて撮り直したキャスト全員、それを支えたスタッフみんなの力が結集されて完成した作品なんですよ。そう考えると総合力がズバ抜けていると思います。

やはり作品賞は、総合力だと思うんです。『ジョーカー』は、ホアキン・フェニックスがすごい。『パラサイト〜』は、ポン・ジュノ監督がすごい。けれども、『1917〜』は、監督、スタッフ、キャストみんながすごかった作品なんですよ。

それに、やはり大きなスクリーンで観たい作品だということも後押しするように思います。次点を挙げるなら、『ジョーカー』か『ワンス〜』かな。
 

 

辻一弘さんの受賞も期待!


主演男優賞は『ジョーカー』のホワキン・フェニックス、主演女優賞は『ジュディ 虹の彼方に』のレネー・ゼルウィガーではないかと予想します。ハリウッド黄金時代に活躍し、48歳で亡くなったジュディ・ガーランドを、撮影時48歳だったレネーが全身全霊で演じています。これは熱演でしたね。

助演男優賞は『ワンス〜』のブラッド・ピット、助演女優賞は『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンか、『ストーリー・オブ・マイライフ〜』のフローレンス・ピューではないでしょうか。

もうひとつ注目しているのは、メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた『スキャンダル』の辻 一弘さんです。クレジット名はカズ・ヒロに変わりましたが、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年)以来、2度めの受賞は堅いと見ていますよ!

有村 昆|Arimura Kon

1976年マレーシア生まれ。年間500本の映画を鑑賞し、豊富な映画ネタを持つ映画コメンテーター。
YouTubeにて『有村昆のシネマラボ』を配信中。

 
文/長野辰次 text:Tatsuji Nagano
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