この日、山下は泰然とした面持ちにもどこか浮き立っているようだった。それというのも、ブルガリ ウォッチのクリエイティブ統括のファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏と初めて対面するからだ。長年愛用する“オクト フィニッシモ”の生みの親であり、しかも新作について直接話が聞ける機会だ。
ファブリツィオ(以下F) 今回の“オクト フィニッシモ”の新作は過去15年で最も重要な開発でした。わずか3㎜を縮小するためだけに、3年間の開発期間を要したのです。ムーブメントを一から再設計し、ブレスレット、ケース、文字盤をすべて見直し、あえて言えば、これは現在の私たちのサヴォアフェール(職人技)の頂点と言えるでしょう。
山下(以下Y) 僕は“オクト フィニッシモ”を愛用して5年以上になりますが、新作をつけた瞬間、これはいいと思いました。まるで引き寄せられるかのように自然に馴染んだことに本当に驚きました。たった3㎜の違いですが、その変化をはっきりと感じられ、これが新しい相棒になる予感がしましたね。
F 目的はより汎用性の高い時計を実現することにあったのです。パワーリザーブは約20%向上し72時間になり、文字盤の厚みがやや増した分、装飾など今後さらに多くの可能性が広がりました。
Y スイスのファクトリーを訪れたときのことを思い出しました。膨大な手描きの図面がまるでひとつの宇宙のようで、その芸術性に圧倒されました。今回の“オクト フィニッシモ”の新たなステージはどのような意味を持つのでしょう。
F これはまるでもう一人の赤ちゃんのような大切な存在です。“オクト フィニッシモ”はそれまでのブルガリ ウォッチに対する人々の認識を完全に変えたと言えるでしょう。その革新の文脈にある新作も単なるサイズ違いではなく、全く位置づけが異なります。ふたつの側面のようなもので、40㎜は薄型への挑戦を続け、37㎜ではより多用途に新たな表現を追求します。それぞれの魅力を理解し、40㎜の所有者がさらに37㎜を購入されるケースも増えているんですよ。
Y 僕はそうした〈ブルガリ〉の“変化し続けながらも、その原点や魂を決して忘れない”という理念が好きです。
F それはまさに私の日本文化に対する認識でもありますね。日本文化は変化のスピードが非常に速い一方で、伝統やしきたりを尊重しています。私たちもブランドをその都度刷新することを心がけていますが、同時にDNAや伝統と一貫性を保つことも大切にしているんです。
Y 挑戦し、変化を続けるということは僕が大切にしている姿勢ですが、〈ブルガリ〉の哲学との共通点のひとつだと思います。それは難しいことですが、諦めないようにしています。
F 私たちは時計でダンディズムを表現していますが、山下さんにとってダンディズムとはなんでしょう。
Y やはり絶えず改善し続けるという精神でしょうか。
F ダンディズムとは、言葉を介さずとも、自分の美意識や価値観を語るもうひとつの言語のようなもの。それは時計にも通じ、センスや力、そしてこれまで受け継いできたレガシーについて語ってくれるのです。気取らない自然体のエレガンスをイタリア語で“スプレッツァトゥーラ”と呼びますが、“オクト フィニッシモ”こそその具現化なのです。
Y まさにそのエフォートレスなスタイルにとても惹かれます。
F 人生の歩みとともに、その時々に合った違うスタイルを持つのも素晴らしいことだと思います。そしてその変化こそが、あなたが歩んできた旅の道のりを物語ってくれるのです。